誕生日小話02


「こんばんは、なまえちゃん、じゃ、これからは僕の時間ね!」


コンコン、とノックと同時に開いた扉から、ピンクのシャツがのぞく。
松野ファミリーとずいぶん打ち解けてはいるものの、わたしはまだ彼らにとって野放しにできるとは思われていないらしく、ここに来た時と変わらず例の部屋で日がな一日を過ごしている。
じゃらり、と重い鎖を引きずって、お誕生日、おめでとうございます、とトド松さんを迎え入れると、トド松さんがにこりと笑った。


「もうこんな時間だし、外出るのは諦めて、なまえちゃん僕のこと甘やかしてよ」


ことり、と首を傾げるトド松さんは可愛い。
あまやかす、と小さく反芻すると、ふふ、と柔らかい笑い声が聞こえた。


「じゃあ、とりあえずその鎖とろ」


カチャカチャと音を立てて重い鎖が足から離れて、ゆったりと髪をなでられる。
トド松さんはうーん、と唸った後、とりあえず着替えしよ、と笑った。


「これ着てね。あ、ちゃんとメイクはしてくれてるんだね。ふふ」


1番手がオシャレに敏感なトド松さんと聞いて、夜中とはいえだらしない姿を見せるわけにはいかないとちゃんと人前に出る身だしなみは整えた。
トド松さんは大きな紙袋から淡いピンクのミニワンピースを取り出して、どうぞとニコニコ笑う。


「あ、じゃあ、着替えるので……」
「うん?どうぞ」


ニコニコ笑ったままそこを動こうとしないトド松さんに、いつだかのデジャヴを感じる。
ちらりとワンピースに視線を投げると、やっぱり背中に長いチャックのついたモデルで、嫌な予感はよく当たるなあとため息をつく。


「お手伝いしてくれるんですか?」
「もちろん」


ワンピースに足を通して、そっと着ていた服を床に落として、髪をかきあげる。
ふふふと笑うトド松さんが背中の後ろに回って、細い指がチャックをつまんだ。


「やっぱり、肌綺麗だね」


うっとりと呟いて、 そっとうなじをなでて、いつだかとまったく同じシチュエーションに小さくため息をつくと、トド松さんはジャっとチャックを上まで上げて、できたよと笑った。


「え」
「ん?なに?…………あ、期待してたの?えっちだねえ」


カラカラ笑うトド松さんは意地が悪い。
ゆっくりと髪をなでていた手のひらが頬に伸びて、そっと唇を重ねられる。
ちゅくちゅくと水音をたてながら舌が入り込んで、はふはふと吐息を繰り返す。


「なまえちゃん、かわいい、ねえ」


うっとりと呟くトド松さんが、はぁ、と熱い息を吐く。


「そんな、緊張しないでよ」


すきだよ。
甘いキャンディみたいな言葉が、耳にどろりと溶ける。
そっと瞳を見つめ返せば、トド松さんはニコニコ笑ったまま至るところに唇を寄せる。


「今だけは、ぼくのなまえちゃんでいてね」


ぎゅうと抱きしめられて、それからそっとベッドに横になる。
トド松さんはねむいでしょ、と小さく笑って、私にぎゅうとくっついたまま、そっと瞳を閉じてしまった。





ゆさゆさとゆるく身体が揺さぶられる感覚で、ふと意識が浮上する。
まだどろりと溶けるような眠気に、すぐ意識を委ねそうになる。


「なまえちゃん、起きて」


甘い声が耳に響いて、うっすらとまぶたを持ち上げると、楽しげに笑う柔らかい笑顔。
くすくすと耳をくすぐる笑い声に、まどろんでいた意識が徐々に戻ってくる。


「ふふ、おきた?」
「ふぁ……すみません、完全に寝てました……」


ちら、と時計を見れば、時刻はもうすぐ四時を指そうとしており、それはすなわちトド松さんの時間が終わってしまうということだ。


「いいよ。なまえちゃんの寝顔ゆっくり見れたし」


かわいかったよ。
トド松さんが、揶揄なんてない甘やかすような笑みを浮かべる。


「でももう……時間終わっちゃいます」
「あとちょっとだね……うーん、そしたらなまえちゃん、十四松兄さんが来るまで、僕にキスしてくれる?」


ん、と突き出された唇と、そっと閉じられた瞳。
4時までは、あと4分ほどある。
わたしからするのかとか、そんなに長い間するのかとか、いろいろ思うところはあったけれど、時間のほとんどを睡眠に充てさせてくれたトド松さんに罪悪感はあって、だからそっと唇を寄せる。
ちゅっちゅっとくっつくだけのキスをして、ぬるりと舌を差し出すと、トド松さんがくすくす笑う。


「ドゥーーーーン!」


そう叫んで黄色の彼が部屋に転がり込んできて、酸欠でクラクラする頭をようやく解放してくれた。

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うたかた