誕生日小話05
「外出るから着替えて」
時間丁度に目の前に現れたチョロ松さんは、緑のワンピースを差し出して、ここで待ってるからと部屋の扉の横にもたれかかった。
着替えの時外に出てくれる人初めてだ。
「どこいくんですか?」
緑のワンピースに、白いパンプスをあわせて、私服姿のチョロ松さんの1歩後ろを歩く。
頭の上でぴょこぴょこ揺れるポニーテールはチョロ松さんの希望で、ひらひら揺れるスカートがくすぐったい。
「とりあえずお昼食べて、それからどうしようかな」
軽自動車に乗り込んで、チョロ松さんがカーナビをいじる。
運転するのは基本的にカラ松さんの役割みたいなところがあるから、ほかの人が運転席に座っているのはあまり目にする機会が無い。
「それ、ワンピース、にあってるよ」
「ありがとうございます」
チョロ松さんは、なんていうか、ほかの兄弟と一緒にいる時はよく喋るしあまり口が良くないけれど、一対一で話す機会はそれほど多くない。
極々たまに訪れる2人きりのときは、チョロ松さんはあんまり話さないし、口調もずいぶん柔らかい。
「お昼、何がいい?特になければ僕の好きなようにするけど」
「あ、チョロ松さんのお誕生日なので、お好きなようにしてください。お誕生日、おめでとうございます」
小さく笑うと、視線だけをこちらに向けたチョロ松さんが、うん、と頷いて、ハンドルを切る。
チョロ松さんは唯一わたしにセクハラして来ない人物で、紳士で、まともで、真面目だ。
「パスタがいいな。パスタ食べに行こう」
チョロ松さんの細くて白い指先がくるくるとハンドルを回す。
六つ子とひとくちに言っても、よく見れば顔は違うし、体つきは全く違っていたりする。
チョロ松さんは中でもたぶん一番細身で、手足が恐ろしく綺麗だ。
「ついたよ」
車から降りたチョロ松さんに連れられたのは、小さな隠れ家的なレストラン。
ほんのり漂ういい匂いに、お腹が小さくくう、と唸ると、隣のチョロ松さんが少し笑った。
「ここね、美味しいし、わりと気に入ってる」
からん、と音を立てて開いたドアを潜ると、アンティーク調のインテリアや小物が所せましと並んでおり、チョロ松さんはさっさと奥のテーブルに座る。
「なに食べる?なんでもいいよ」
「えっ、あ、うーん、どうしよう……」
パスタも美味しそうだし、オムライスも捨て難い。
ハンバーグも自家製らしくて、それにも惹かれる。
うーん、と唸るわたしに、チョロ松さんは呆れたように笑って、小さく肩をすくめた。
「決まらないなら、今日のオススメにしたら?」
「あ、じゃあ、そうします」
「うん」
オーダーを済ませたチョロ松さんが細い指先で、机の木目をなぞる。
「ここはね、僕らが小さい頃からよくおせわになってるとこなんだ」
「そうなんですか」
「うん。なまえちゃんは僕らのファミリーになってくれたし、特別にね」
ふふ、と笑ったチョロ松さんに、わたしはちゃんとファミリーの一員として認めてもらえているんだと嬉しくなる。
「今日はさ、誕生日だからって、無茶振りさせてごめんね」
「いえ、何も準備してなかった私も悪いですし」
「はは、なまえちゃんに準備させないようにしてたのはあいつらだし」
「え、そうなんですか?」
「うん。ごめんね、あいつら、ひどいことしなかった?」
困ったように笑う彼は、いつだって5人のツッコミ役で。
苦労しているなあ、とぼんやり思う。
「いえ、……まあ、大丈夫、です」
「大丈夫じゃないよね……ごめんね。上2人も多分すっげーバカなこと言うと思うけど、あまりにひどかったらぶん殴ってね」
運ばれてきたプレートの香りに、お腹がぐうぐうと主張し出す。
チョロ松さんの細くて長い指先がくるくるとフォークを操るのを見つめながら、わたしもパスタを口に運ぶ。
「おいしい……」
思わず漏れた感想に、目の前の彼がよかった、と笑う。
「気に入ってくれた?」
「はい、すごく美味しいです」
「はは、そう言ってもらえたら、嬉しい」
ゆるく笑んだチョロ松さんが、そっと瞳を伏せる。
「誕生日、家族以外に祝ってもらえるの、いつぶりかな。ありがと、なまえちゃん」
薄く頬を染めた彼が、はずかしそうに笑いかけてくれる。
「チョロ松さん、わたし、チョロ松さんのこと、もっと知りたいので、教えてくれますか?」
たまらなくなって、思い切ってそう言えば、チョロ松さんは驚いたように目をぱちくりさせた後、そっと時計に視線を向けて、もちろんだよ、と、嬉しそうに笑ってくれた。
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