誕生日小話06


「ハニーーーーー!!!」


テンション高く部屋に乗り込んできたのはカラ松さんで、手渡された紙袋には青いドレス。
5回目ともなるともう慣れて、何か言われる前にさっさとそのドレスに手を通す。


「だ、だいたんだなあ、」


件の面々とは違って、目の前で私が着替え出すと顔を真っ赤にするカラ松さんは、酔ったり寝ぼけていたりしない限りは紳士である。


「ドレスなの、カラ松さんがはじめてですよ」


胸元ドレープの青いドレスはシックで大人びていて、カラ松さんが好みそうなデザインだ。
ちらちらと谷間が見え隠れするのも彼の趣味なんだろうか。もう何も聞かないけどさ。


「チョロ松とランチしたんだろう?じゃあ俺とは、お茶にしよう」


格好つけて差出された手のひらをとって、日の当たるテラスに出る。
白いガーデニングテーブルには小さなケーキとポットが並んでいて、カラ松さんは小さく笑って椅子を引く。


「さ、座ってくれよ、princess」
「……どうも」


向かい合うように腰掛けて、カラ松さんが紅茶をコップに注ぐ。


「コックに頼んでおいたんだ。なまえちゃんは甘いもの、好きか?」
「え、あ、すきです」
「はは、しってる」


そっと伏せられたまつげが揺れる。
カラ松さんはコップをひとつと、ケーキを私の目の前に並べて、頬杖をついてニコリと笑う。


「ハニーとこんなふうに話してみたかったんだ」
「……わたしと」
「そう、いつもはブラザー達がいるからなあ」


ミルクも砂糖も入れないで、カラ松さんがコップを傾ける。


「ブラザー達が嫌いなんじゃない。だけど、なまえは特別」
「……」
「なまえは、俺たちの…………俺の、特別」
「……カラ松さん?」


いつもの笑顔じゃない、きえてしまいそうな、笑み。
自分に言い聞かせるような、諌めるような。


「カラ松さん」


何て言えばいいかわからなくて、言葉に詰まる。
視線をさまよわせるわたしに、カラ松さんはカラカラ笑って。


「うん、ごめんな、心配かけた。はは、なまえのことが好きだって言ってるだけ」
「……はい」
「そんな、困った顔するな。別に俺達は、なまえが誰かのことを選ぶのを待ってるわけじゃないから」


そっと頭を撫でられて、その手の優しさに俯いてしまう。


「さ、なあ、隣に座ってもいいか?」
「え、あ、はい」


わたしの隣に椅子を移動して、カラ松さんが腰掛ける。
腕が触れそうなほど近い距離の彼は、わたしの頬をなでて小さく笑った。


「なまえはかわいいなあ」
「……カラ松さ、」


そっと重ねられた唇に、思わず肩が跳ねる。
カラ松さん、なんか、今日、


「……カラ松さん、何か、ありましたか」


唇が離れた瞬間、そっと距離をとって青みがかった瞳を見つめる。
蒼がゆらゆらと揺れて、カラ松さんがふ、と泣きそうに笑う。


「大丈夫だ、少し、疲れた、だけ」


ぎゅう、と首の後ろに腕が回って、カラ松さんの香りが鼻をかすめる。
カラ松さんがこんなふうに甘えてくるのは珍しくて、そっと彼の髪をなでてみる。
意外と細くて柔らかい髪。
カラ松さんはびくりと肩を震わせた直後、すりすりと頭を擦り寄せてきた。


「カラ松さん、今日は、甘えんぼですねぇ」


小さく笑うと、ゆっくり顔を上げたカラ松さんが、ちいさく唇を尖らせる。


「……し、少々取り乱してしまったぜ」


耳まで真っ赤なカラ松さんは、きっとこっちが素なんだろうなあ。


「幻滅したか?」


こてん、と首を傾げて、カラ松さんが眉を下げる。
ふるふると首を振れば、彼は嬉しそうに笑った。


「俺な、なまえちゃんと一緒にいられて良かったよ」
「はい、わたしもです」
「うん、俺達のそばにいてくれてありがとうな」
「……カラ松さん、お誕生日、おめでとうございます」


まっすぐ蒼を見つめて笑えば、カラ松さんはぱちくりと瞳を瞬かせて笑う。


「……うん、ありがとう」
「プレゼント用意出来なくてごめんなさい」
「いや、俺たちのせいでもあるからな」
「なにか欲しいもの……ありますか?」
「う、ーん…………」


カラ松さんが首を傾げて、顎に手を当てる。


「あ……じゃあ、ひとつだけ頼みがあるんだが、いいか?」
「はい。私に出来ることなら」


こくりと頷くと、バツの悪そうなカラ松さんが視線をさ迷わせながら頬をかく。
凛々しい眉は少しばかり下がって、余計な脂肪のついていない頬はほんのりと赤い。


「あの、おめでとうって、キスをしてくれないだろうか」
「へ」


言い淀んだわりに、そんなことでいいのか、と驚いた私に、カラ松さんは勘違いしたらしく、嫌だったらいい、すまない、と早口でまくし立てて苦笑いする。


「…………カラ松さん」


少しバツが悪そうに、落ちこみを隠すように笑うカラ松さんに顔を近づけて、にっこり笑う。


「カラ松さん、いつもありがとう。お誕生日、おめでとうございます」


そのまま首の後ろに手を回して、思いきり寄せてそっと唇を重ねる。
真っ赤な顔のカラ松さんが、かぼそい声でありがとうと呟くのと、時計の針が八時をさしたのはほぼ同時だった。

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うたかた