誕生日小話07
「やっほーーーーなまえちゃんー!真打登場ー!」
にこにこ笑うおそ松さんが勢いよく扉を開けたのは、8時ちょうど。
わたしの目の前に立ったおそ松さんは、椅子に座っていた私の両手をとって立たせて、脇下のチャックを勢いよく下げた。
「ヒェ」
「なまえちゃんやっぱさー赤が一番良く似合うと思うんだよねぇ」
うんうんと一人頷きながら、おそ松さんが青いドレスを床に投げ捨てて赤いドレスを被せる。
背中と胸元の露出の高いセクシーなデザインはおそ松さんの趣味だろうか。
ご丁寧に背中のチャックもあげて、彼はわたしをまじまじと一周させて眺めて満足げに笑う。
「やっぱ赤似合う!エロいし可愛いわ」
「……はぁ……」
「なまえちゃん今日すげー着替えただろー?ごめんね自分勝手なやつらでさあ!でもさあ、なまえちゃんには赤が一番映えるんだって!」
「……そうですか…?」
「なまえちゃん白いからねえ。濃い色が映えるんだよ」
おそ松さんがにたりと笑って私の手のひらを撫でる。
すべすべしてんねえ、とくすくす笑う彼は何を考えているのか、まだよくつかめない。
「よっしゃ、ほんじゃま、出掛けよっかお姫様!」
私の手をとって、かしずいて手の甲に唇を落とす。
おそ松さんはふわりと笑って、手を引いて黒い高級車のドアを開けた。
「俺、最後とか最悪だと思ってんだけどさぁ、わりと役得だわ」
運転席に乗り込んだおそ松さんは、骨ばった指先で私の髪を撫でて目を細める。
「どこにいくんですか?」
「へへ、内緒!そんなに遠くないよ」
ハンドルを握ったおそ松さんが、ゆっくりとアクセルを踏み込む。
静かに動き出した車に、おそ松さんはゆるく口角を上げたまま長いまつげを揺らす。
「なまえちゃん怒ってる?」
「え?」
「突然俺らに振り回されてさ」
それは、今日のことだろうか、それとも、彼らと出会った日のことだろうか。
表情を変えないおそ松さんに、たぶんどちらともを指しているのだろうと合点して、ゆるゆると首を振る。
「怒ってなんていません。好きなので」
「……そ、れはふいうち」
びっくりしたようにこちらを見て、慌てて前を向くおそ松さんの頬はあかい。
くすくす笑うと、バツが悪そうに眉をしかめられた。
「なまえちゃん、ずりいよなあ、ほんと、ずるいって」
「そのずるい、って、なんなんですか」
呆れたように聞き返しても、おそ松さんは唇を尖らせたまま返事をくれない。
ぶつぶつとずるいを繰り返して、ハンドルがくるくる回る。
「あ、ついたついた」
おそ松さんを追って車を降りた先には、満天の星空。
小さな駐車場のようなそこは、びっくりするほど綺麗なのに、人一人いなかった。
「これ、おそ松さんの仕業ですか?」
ちらりと隣の彼に視線を投げると、さあ、といたずらっぽく笑われる。
きらきらと輝く星に、すうと息を吸い込んで上を向く。
「これ、なまえちゃんに見せたかった。レストランと迷ったけど、昼、チョロ松に飯連れてってもらったろ?」
「はい、よくわかりましたね」
「うーん、おれ、お兄ちゃんだし。あ、ねえなまえちゃん腹減らない?簡単にだけど食べるもの持ってきたから、それ食いながらちょっと話そ」
じゃあん、と笑って、おそ松さんはトランクから小さな椅子をふたつと大きな包を取り出した。
椅子を隣同士に並べて、包からサンドイッチを取り出して、椅子に腰掛ける。
隣の椅子をポンポン叩いて、おいでと笑ってくれた。
「準備いいですね」
「そう、なまえちゃんのためにねー」
へらへらと笑うおそ松さんの本音なんてわからないけど、はあ、と曖昧に笑っておく。
おそ松さんはサンドイッチを咀嚼しながら、キラキラ光る星を見上げる。
「へへ、俺さ、なまえちゃんと星空見たかったんだよね」
「好きなんですか?」
「え?」
「星空、お好きなんですか?」
そんなこと、一度も聞いたことは無かったなあと少し不思議に思いながら首を傾げる。
おそ松さんは、ああ、とひとりで納得したように頷いて、それから、うーん、と唸る。
「そうね、星も好きなんだけどね」
「?」
「おれ、なまえちゃんが好きだよぉ」
へらり。と。
笑われて、胸がドキドキする。
「あ、返事とかいらないし、そういうつもりじゃないからね」
なんか言いたくなっただけだからね、なんて、余計にタチが悪い。
「なんか、ほんと、皆さん似てます……」
「えー?なになに?俺以外にも告白されたの?やるねーなまえちゃんってば」
にやにやと笑うおそ松さんが、そっと肩に頭を預けてくる。
「でも今は他のやつのこと考えないで」
ね?
ゆるりと首を傾げたおそ松さんが、ゆっくりと近づいてくる。
伏せられたまつげが揺れて、やわらかな感覚と軽いリップ音。
ちゅ、ちゅ、と顔中にキスの嵐が降ってきて、ぬるり、と口内に侵入してきた舌を迎え入れる。
「ン」
「……っん、ふ」
はあ、と艶っぽい吐息とともに、おそ松さんがゆっくりと身体を離す。
「……ふは、なんか照れんね」
片まゆをさげて、子どもみたいに笑う。
肩にじんわり伝わるぬくもりに、くふりと笑みが漏れる。
「もーちっと甘えさして」
「……はい」
「なまえちゃん」
「はい」
「呼んだだけ」
「……お誕生日、おめでとうございます、おそ松さん」
ん。
ぐりぐりと肩に頭をすり寄せる彼の表情はわからなかったけれど、小さく笑った、気がした。
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