ハロウィン(序)


※だいぶ仲良し




「ハッピーハロウィンなまえちゃーん」


にこにこ笑顔のおそ松さんが、今日の私のお世話係だ。
とりあえずおはようございますとだけ返して、カレンダーに視線を投げた。


「ハロウィンですか」
「そそ!えっへへー、似合うっしょ」


黒いしっぽを生やした彼は悪魔なのだろう。
コスプレなんかしなくても悪魔そのものなのになと思ったことは口が裂けても言えないなあ。
鼻の下を擦ってへらへら笑うおそ松さんに小さく頷いて、今日は少し面倒な一日になりそうだなあと口に出さずにぼんやり思う。
どうも私を拾ったマフィアさん達はこういったイベント事が好きらしい。
そもそもどんちゃん騒ぎが好きらしく、事あるごとにこうやって皆で騒いでいる。


「何たって世の中はトリックオアトリートで溢れてんだよー?」
「……はぁ」


顔を洗って、髪を整えて。
おそ松さんが差し出してきたのは大きな紙袋で、ちらりと覗くと黒い布が見え隠れしている。
眉を顰めて、ささやかな抵抗だけれどもクローゼットに手をかければ、ええー?と困ったように笑うおそ松さんに後ろから抱きしめられた。


「ちょちょ、服なら今渡したじゃん」
「今日は赤いワンピースの気分なんです」
「ん、んァァ、それいい、それいいけど今日それ許しちゃうとお兄ちゃんぶっ殺される!」


んーんーと唸りながら抱きつく腕の力を強くするおそ松さんを無視して、渋々紙袋の中身を取り出す。


「ふざけないでください」
「罵られて喜ぶの一松だけだからあいつにやってあげてくれる?」


ぺしんとおそ松さんの額を軽く叩けば、手首を取られてそんなことを言ってのける。
絶対やらない。
中に入っていたのは黒い警官の制服で、だけどがばっと露出した胸元とか、見えちゃうでしょ?ってスリットとか、網タイツとか、完全にパチモノだ。誰の趣味だ。


「……」
「え、ちょ、ドン引きやめて!」
「百歩譲ってハロウィンするのはいいですけどこれは着ないです」
「んえー、ダメダメ。俺が怒られるもん」
「知りません……嫌です、無理です」


そもそも彼らはマフィアじゃなかったっけ。
警官のコスプレってどうなのよ。
まあそんなこと考えても無駄なんだろうけれど。
ぐるぐる考えて小さくため息をついた私に、おそ松さんは少しだけ眉を下げた。


「着ないなんて選択肢はないでしょ。俺の言うこと聞けるよね?」


こんなくだらない事で凄まないでほしい。
ニィ、と口角を上げたおそ松さんのかさついた指先がわたしの唇を撫でて、もう片方の手で腰を抱かれる。
除き込むように合わされた目は赤みがかって、この目に見つめられたら、わたしは小さく頷くことしか出来ないのだ。





「かっっっわいいー!」
「……どうも」


渋々着替えて、心底楽しそうなおそ松さんにひきずられるように大部屋に連れていかれて、そこには、まあ当然のごとく仮装した5人が待ち受けていた。
悪魔のおそ松さん、吸血鬼のカラ松さん、フランケンのチョロ松さんに、死神一松さん、軍人十四松さん、天使トド松さん。
悪魔と死神なんてわざわざコスプレしなくても中身はそのままだし、トド松さんの天使は本当に似合っているけれど中身を知っている以上違和感しかない。
こんなこと絶対言わないけど。


「おお、キュートだななまえ」
「馬子にも衣装だね」
「ヒヒ、ちょっと罵ってみてくださいよ……」
「なまえちゃん似合うね!すっげーエロい!」
「ほんと似合うねー。あとで写真撮ろっ」


各々好きなことを言う彼らはもう放っておこう。
どうせ今日1日の辛抱だし、何着てるかの違いしかないんだろうし。
そうタカを括っていたことがわたしにもありました。


「んじゃ、なまえちゃんトリックオアトリート!」


朝食を終えた私の前にずらりと並んだ6人が、いっせいに手のひらを差し出す。


「えっ、えっ…………」
「ん?用意してないのか?」


ひやりと嫌な予感が背筋を走る。
こういう時の勘だけあたるって、私知ってます……。


「か、買ってき」
「アッハァ、じゃあイタズラしちゃおうかなァ?」


慌てて逃げようとした私を、楽しくて仕方ありませんという表情の一松さんが許してくれない。
ずいと近づいた彼は、私の腕を掴んでべろりと舐めあげた。


「ひ、ひぇ」


厄日だ!

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うたかた