ハロウィン(下)


トド松さんと十四松さんと一松さんが満足して解放してくれた頃には、身体中が痛いし唇の感覚はないしでもうボロボロだった。
夜ご飯もお風呂もいらないからもう寝たい。
もはや涙すら出ない私と対照に、3人はそれはそれはご機嫌で私の手を引いて大広間へ歩いていく。
一番酷いのは首筋だけれど、そっと見下ろした胸元や太腿もまあまあの惨状である。
もういっそグロい。


「ハロウィン最高だねェ」


散々歯形を立ててくれた一松さんが、血のにじむ太ももを撫で上げて笑う。
あぁこれ、どれくらいで消えるかな。


「なまえちゃん色白いから映えるよねえ」
「キレーについたねー」


これから先、お風呂に入るのが怖い。
憂鬱な気分を抱えて広間に足を踏み入れると、目をまん丸にしたおそ松さんたちと視線が合った。


「おー……ハロウィン楽しんだー?…………ってえー?!一松たちにもキスマークつけてあげたの?!」
「フッ、盲点……」
「ってかなまえちゃん身体中すごい事になってるね」


不満そうに眉を寄せるおそ松さんとカラ松さんに面倒だなあという気持ちが隠せない。
唯一引き気味に私の肌を撫でてくれたチョロ松さんはジャケットを持ってきて羽織らせてくれた。


「えー、狡くない?俺らにも印つけてよなまえちゃぁん」
「なまえのものにして、いいんだぜ?」


キメ顔でウインクを飛ばすカラ松さんになんとも言えない気持ちになる。
ずるいずるいと騒ぎ立てるおそ松さんは率直に面倒くさい。


「もうほんとに勘弁してください……」
「そうだよー、みっともない真似やめてよねおそ松兄さん!」


トド松さんが助け舟を出してくれて、思いのほか泣きそうな声が漏れて、我ながら情けないけれど仕方ないと思う。
だって本当に疲れたしどこもかしこも痛いのだ。
むっすり唇を尖らせたおそ松さんはちぇ、と面白くなさそうに呟いて、そっと私の腰を抱き寄せた。


「1個でいいよぉー、ね、おねがい?」


耳に唇を寄せられて、リップ音が響く。
ビックリして身体を捩ろうとすれば逃がさないとでもいうふうにガッチリ抱え込まれて、耳に生暖かいものが触れる。
ぴちゃ、と音を立てられて、舐められていると気づいた時には背筋がゾワリと震えて、思わず声が漏れた。


「……っぁん」
「…………っなに、えっろ」
「ちょ、っぁ、ダメです、ダメッ、やめてくださっ、っひ」


がっちり身体に回る腕をぱたぱた叩いてみてもびくともしない。
耳もとで響くはぁ、という吐息が熱くて、なんだかどうしようもなく恥ずかしくてぎゅっと瞳を閉じる。


「っあや、やります!やりますから、はなしてくださ、」
「……ん、もーちょっと、」


こんな公開セクハラよりはキスマークをつける方が何倍もいいに決まっていると慌てておそ松さんを制止しても、全く聞く気はないらしい。
おそ松さんの角張った手のひらが短いスカートから入り込もうとして、もう片方の手のひらがそっとわたしの胸を揉みしだくように動い、て。
ひえ、と情けない声をあげれば、耳もとで熱い吐息が色っぽく笑う。


「っそまつ、さ、」
「……なまえちゃん…………」


艶っぽい声で名前を囁かれて、頭がぐらぐらする。
やめてください、という言葉は声にならず、はぁはぁと呼吸だけが響く。
ゆるゆると太ももの付け根を撫で回していた指先が、ゆっくりと下着の上を滑って、誰にも触れられたことのない場所を掠めて、それから。


(ひ、ひえ)


いきなり離れていった体温に、きつく瞑った瞳を恐る恐る開けると、カラ松さんに羽交い締めにされているおそ松さんが視界に飛び込む。



「……満足したか?」
「……すいませんでした」


おそ松さんの首を絞めながら、ニッコリ笑ったカラ松さんは、目がちっとも笑っていなかった。
ようやく自由になった身でほっと溜息をつくと、それまで遠巻きだった4人がおそ松さんに近づいて、ニッコリ口角をあげた。


「調子のんなって言ったよね?」






結局、5人から雷を落とされたおそ松さんは、俺ボスなのに、と心底不満そうに不貞腐れて。
なあなあになったと思っていた『わたしがみなさんにキスマークをつける』イタズラ(?)は、おそ松さんとカラ松さんと、私を心配する素振りを見せつつ何故か乗り気なチョロ松さんにより半強制的に執行された。
散々すぎる一日だったけれど、ハロウィンだからと食べさせてもらったデザートが今までないほど美味しかったです。
でもまあハロウィンはもういいかなあ。

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うたかた