02
おそ松さんの、自分が看病をする、という申し出に、チョロ松さんは最後まで渋っていたけれど、任務があるんだろ、という言葉に、渋々という感じで頷いて、チョロ松さんは行ってしまった。
「絶対変なことすんなよクソ長男、ってさぁ。ボスに向かってひどくね?」
へらへら笑うおそ松さんに、返事をしたいのは山々なのに、言うことを聞かない身体がもどかしい。
おそ松さんは私の葛藤を見透かすように笑って、ゆるりと私の髪を撫でた。
「なまえがへますんの珍しいよねえ。最近すげー慣れてきてたしさ」
「だからさぁ、油断してたんだよ、俺たちも」
おそ松さんが、髪を撫でていた手のひらを止めて、はあ、と小さく息を吐く。
「……毒を盛られたって帰って来た時さ、オニイチャン心臓止まったかと思った」
大きな手のひらが私の瞼を覆っているせいで、おそ松さんの表情は見えない。
「俺わりとこの仕事向いてる自信あったのになあ」
「こんなんあいつらのことなんも言えないよなあ」
「……あいつらもさ、死ぬほど心配してたよ」
「顔真っ青にして、手のひら真っ白に握りしめて。六人そろって笑えねえよなあ」
「男の心を食らう、なんてさ、よく言ったもんだよねえ」
ぽつぽつと零れる低い声が心地よくて、いつの間にか、息苦しさはどこかへ消え失せていた。
「早く元気になってよ」
最後の言葉が、ほんの少し震えて聞こえたのは気のせいだっただろうか。
苦しさが消え、どろりと疲労感が襲ってくる。
「おやすみ、俺たちのtesoro」
***
「…ん…」
カーテンから差し込む光に、うっすらと瞳をあける。
どれくらい寝たのか、毒はすっかり抜け切ったようだ。
「えっ」
そっと身体を捻ると、ベッドにうつ伏せる黒い髪が揺れる。
赤いシャツから伸びる骨ばった手のひらは布団の中の私の手をしっかりと握っていて、もしかして、一晩中ここに居てくれたんだろうか。
「……ん…、あれ、おきたぁ?」
しぱしぱと瞬きを繰り返して、おそ松さんが小さく笑う。
まだ眠そうな表情はいつもより幼くて、体調大丈夫?という質問にこくりと頷き返せば、嬉しそうに笑った。
「まだ全部は抜け切ってないだろうからさ。水沢山飲みなー。はいこれ、差し入れ」
枕元に並ぶ、銘柄がばらばらの6本のペットボトルを指さして、おそ松さんがカラカラと笑う。
「みんな考えることは一緒ってねぇ。あいつら心配してたからさ、あとで顔見せてやってね」
なまえちゃん寝てる横でソワソワうざいから全員部屋に帰らせたけど、と肩をすくめるおそ松さんは、呆れた顔をしているけど声色は優しい。
状況が容易に想像できて、思わず笑ってしまった。
「お、なまえちゃん笑ったね?そんだけ元気なら大丈夫かな、良かった」
「はい。……おそ松さん、ありがとうございます」
よれたスーツを見て小さく笑いかければ、おそ松さんはやっぱり、嬉しそうに笑ってくれた。
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