音色にのせて−3
「え、音羽奏弥って、あのプロの音楽家のですか?」
上鳴は、警察からの依頼に電話口で驚きの声を出した。
色んな意味でよく知る名前は、上鳴が思い描いていたのと同じ人物を指しているようで、それが依頼対象となっていることに驚きとともに不安が広がった。
上鳴はヒーロー・チャージズマとして独立したての若手ヒーローだ。都内に事務所を構え、電気系の個性を持った者を相棒にしている。まだまだ小さな事務所ではあるが、汎用性の高い電気系の個性ということで多くの活躍の場をもらっている。
そんな中、警察から直々に依頼を受けたのが、奏弥についてだった。
世界的にも知られるほどの若手音楽家である奏弥は、実は上鳴の同級生だ。中学が一緒だったのである。最近は忙しくてほとんど会っていなかったものの、活躍はよくメディアで聞いていた。
その奏弥が、ここ1か月ほどまったく音信不通なのだという。契約先の事務所も何も分かっておらず、警察が動いたそうだ。そして、同級生でありヒーローでもある上鳴に白羽の矢が立った。
なぜこんな早くから警察が動くのだろう、と思っていると、それは最近発覚した奏弥の個性が原因だった。
奏弥は、音楽を演奏している間に聴衆に言う事を聞かせられる個性があるとつい最近分かったのだろいう。それが原因で、コンサートで来場者の半数が怪我をした。
警察病院で個性が明らかになったあと、警察は敵になったらまずいということで密かに動向を把握しており、それもあってこんなにも早いタイミングで警察が動き出したということだ。
上鳴は二つ返事で依頼を受けた。
有名人だからとか、同級生だからとか、そういうことは考えなかった。
ただ、上鳴にとって、奏弥は初恋の人だったから、それだけだ。
しかしもしも敵になっていれば上鳴は容赦するつもりはない。まずは現状把握から、上鳴は警官数人とともに奏弥の家に向かった。
***
奏弥が暮らしている小奇麗な一軒家は、奏弥が一人暮らしをする家だという。
窓はすべて閉じられ、カーテンで中は見えない。メーターが回っているので中にはいるだろうとのことだ。
まずはインターホンを押すが、まったく反応はなかった。
「どうしましょう…」
困り果てる警官に、上鳴はすう、と息を吸い込む。
「奏弥!久しぶり!俺、上鳴電気だけど!」
インターホンで出ないなら大声で呼ぶ。原始的な方法こそ最も効果的なときもある。ご近所迷惑極まりないが、それがまた出てくる圧力にもなる。
そして、玄関が開いた。警察がやると、近隣住民に疑われてしまう。有名人である奏弥の社会的影響を考えると、確かに警察にはできない手段だっただろう。
「え…ほんとに上鳴君だ…」
「おっす、久しぶり!あー、よければ上がってもいいか?」
「別にいいけど…」
警官は咄嗟に家の塀に隠れた。疑われないためで、奏弥も上鳴1人と判断して玄関を多き開いた。上鳴はこんなことで初恋の人の家に上がるとは、と変な感慨を抱いた。
奏弥はずっと引きこもっていたわりには清潔さを保っていて、見た目には一度も家を出なかったとは思えない姿だ。しかし、その目に生気がないあたり、尋常でないのは確かだろう。