風と心の鍵−5


そうして啼かされること、実に4時間。
恐らくイナサは希糸の中で3回は達したはずだ。そうして体位を変えてまた、というように、イナサの絶倫ぶりを見せつけられてしまった。
しかも、「今日はこんくらいにするっス」とすら言っていたので、まだ先がある。
そして現在、2人は風呂に入ったあとベッドに全裸で転がっている。希糸が動けないのをいいことに、イナサは希糸に腕枕をして抱き込んでいた。口だけで拒否しても、もうイナサは聞かなかった。


「…お前、ほんと、おかしい…普通気持ちわりぃだろこんなん…」

「ふっふっふ、そろそろ先輩も諦めた方がいいっスよ!俺が諦めるってことを!」


ここまでしても、イナサはあっけらかんとしていた。あまつさえ、希糸を図体のわりに優しく抱き締めてくる始末。もちろん、今までの相手は金で時間をやり取りするだけの関係なので、こんな距離になったことはない。


「…おかしいだろ、ほんと」

「まっ、それだけ先輩のこと好きなんスよ!だから、先輩のこと知りたい。なんで今日、あんなことしてたのかとか…なんで屋上にずっと1人なのかとかも、ほんとは聞きたいっス。でも、先輩が話したくないならいい」

「強引に聞き出してもいいようなことしたろ」

「それはお互い様っていうか…俺も気持ちよかったし。それに、好きな人に無理強いはしたくないっス」


どうやら本当に、イナサは希糸のことが好きらしい。どうせ気の迷いだと思っていた。いや、そう思おうとしていた。その方が楽だったからだ。だが、イナサはそれを超えて来た。


「……前年度、今年の2月の期末試験の事件、知らねぇの」

「…?知らないっス」


頑なに自分を見せようとしなかった希糸。しかし、こうしてイナサはどんなことをしても変わらず希糸を見ようとしてくれた。もう、諦めて話すしかないだろう、なんて、誰とはなしに内心で言い訳をしながら、希糸は話し始めた。



***



つまらない学校、周囲からの妬みの視線、ライバルを蹴落とそうという露骨な姿勢、親の無関心、そうしたことにいよいよ希糸は嫌になって、2学期にはもう服装を乱すようになっていた。ピアスも小ぶりなものを開けて、少しずつ反抗をし始めたのだ。
教師に注意されることは多かったが、成績でトップを張り続けていたこともあり、そう厳しい注意はされなかった。

そんな中、学年最後の期末試験。
試験当日に、数学教師が問題用紙の数が合わないことに気づき、試験の開始が遅れた。とりあえず足りない分を補てんして実施されたが、前日の夜に機械によって枚数をカウントされ、鍵付きのロッカーにしまわれた問題用紙が足りないということはありえなかった。
機械にはカウントした記録が残っているため枚数は正確であったし、鍵もしっかりとかかっていた。

また、この学校では教師の残業をゼロにするため、18時には強制的に職員室の鍵が閉められる。
誰も、ロッカーの鍵を開けることはおろか職員室にすら入れないはずだったのだ。
そんな状況では、問題用紙が何らかの違法な手によって盗まれたと考えるのが自然だ。そこで数学教師が真っ先に疑ったのが、希糸だった。

なぜなら希糸の個性はピッキング、この世に希糸が開けられない鍵は存在しない。個性、そして反抗的な日々の態度、そうしたことだけを証拠に教師は希糸が犯人だと決めつけた。

もちろん希糸はそんなことはしていない。そうせずともできるからだ。
完全な状況証拠と決めつけだった。

学校側は数学教師の主張を聞き、しかし物理的証拠もないので、希糸を反省文と謹慎1日とした。
ごく軽いものであったし、期末の点数もいつも通り1位を保ったが、当然生徒たちの目は厳しかった。罰を食らったという事実だけで良いのだ。
不正によっていつも高い点数を取っている、と認識されたのである。

最初は色々と面と向かって言われたが、一言「うるせぇ」と凄めば、勉強することしか能がない普通科の生徒たちは途端に恐れて近づかなくなった。
学年末の数学はヒーロー科とは別日程の科目となっていため、そうやらヒーロー科ではあまり知られていない話らしい。

今でも数学教師は、普通科で「個性を使って不正に試験を受けたヤツがいる」と毎度生徒への注意のためにこの話をしているのだという。


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