風と心の鍵−8


それは知らなかったらしい校長と教師は、事務員を振りかえる。事務員はこくこくと頷いた。
さすがにここまで来れば、目の前のモニターで映し出されるものが何か分かる。

もし仮に希糸が犯人だとすれば、個性を使って鍵を開けた場合、職員室は自動的に照明がつく。
そうでなければ職員室の鍵は開かれず、誰も中には、少なくとも廊下からは入っていないことになる。


「これから、事件発生時刻、つまり施錠された18時から翌朝までの時間に、職員室を外から写した監視カメラの映像を早送りでお見せするっス。この映像は自動的に、窓からの侵入者がいたかどうかの証明にもなるっス」

「まぁさすがに、そんなことあれば私が報告していますがね」


事務員はのほほんと言った。数学教師は顔を青ざめさせている。校長も難しい顔をしていた。
そうして映像が流れ始める。職員室が開錠される朝の6時までの12時間を早送りでモニターは映した。数分間に渡る視聴の間、一度も、職員室に明かりは灯らなかった。もちろん窓から誰かが入ったということもない。


映像が終わると、教師は声を震わせて怒鳴った。


「こ、校長室から入った可能性はどうだ!室内で繋がっているだろう!」


職員室と繋がる校長室は、廊下から蝶番で動く扉によって出入りでき、校長室から職員室へ入ることができる。この経路なら確かに自動点灯機能は関係ない。


「…校長室は扉の開閉がデータに記録される」


校長が重々しく言うと、イナサは頷いた。


「事務員さんに確認してもらったところ、やはりこの時間に開閉されたデータはなかったっス。確かに先輩の個性は電子ロックも、物理的な鍵の構造である限り開きます。でも、データはきちんと残るんスよ。そういうシステムっスから」


これで完全に証明された。希糸は、これらの証拠を前に、犯行が不可能だった。


「じゃ、じゃあ誰が犯人だって言うんだ!!」

「それは知らないっスよ。俺にとって重要なのは、先輩が無実かどうかだけっス。校長先生、先輩の無実、認めてもらえますか」


イナサは淡々と返す。温度のない喋り方は、イナサの静かな怒りが見えるようだった。


「…あぁ認めざるを得ない。我々は、君に大変なことをしてしまった。緊急の保護者会を開いて、生徒たちにも学年集会で通達しよう。保護者様には学校として、後日お詫びにいかねばならんな」


校長はそう言うと、希糸に向き直る。そして、軽く頭を下げた。校長ほどの立場の大人が生徒に頭を下げるということの意味が分からないほど子供ではない。だが、ここでそれをやめろというわけにもいかなかった。


「…理解していただけて良かったです」

「今後の対応は真摯に検討しよう。君たちも、この件で自主的に動いてくれてありがとう」


こうして、この後のことは緊急の職員会議で決めるとして、校長と教師は足早に去っていった。事務員に礼を言って、希糸たちも廊下に出る。


「では、私もこれで」

「あ、毛原…その、ありがとよ、見ず知らずの俺のために」

「なに、ヒーローは救けるのに知っているかどうかなんて気にしない。君の無実が証明できてよかった」


毛原はそう言って笑った(気がする)。2年のフロアへ戻っていくのを見送ると、ついにイナサと2人になった。


「よし!じゃあ先輩帰るっスよ!」

「あ、あぁ…」


イナサは元気よく言うと、希糸の手を引いて歩き出す。廊下を進み、階段を下りていく。テストが近いため、生徒はほとんど帰宅し、人気はまったくなかった。
踊り場で、希糸は足を止める。イナサもそれに気づいて止まった。


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