特別な存在−4
とある地方都市のとあるアパートが、しばらくの2人の潜伏先だ。わざわざ同じ場所に住まなくても、と思うのだが、依頼主に言われては仕方がない。たとえ獄中にあってもだ。
部屋は普通の1DKで、ベッドもなく布団が一式だけある。二枚敷くには家具の関係でスペースがなかった。
「まさかの布団まで一緒とはね…」
「チッ…」
「露骨に嫌そうだね荼毘さん」
「当たり前だろ」
「でもほら、俺料理できるよ」
「………そうか」
さすがに同じ布団で寝る、ということに荼毘も嫌そうだし、イズも嫌だったが、仕事と思えばまったくつらくない。基本的に何でもできるので、料理には困らないと言えば、荼毘は複雑そうな顔をしながらもそう返した。
さっそくその夜、ご飯と味噌汁、肉じゃが、焼き鮭という一般的な和食を作ったところ、ローテーブルに並んだそれに荼毘は目を瞬かせた。
「…既製品、じゃねぇよな」
「失礼な、できるって言ったじゃん」
「分かってる」
イズの個性もあって、荼毘の嫌そうな感じはすぐに引っ込んではいたものの、イズが作った食事を意外そうにしていた。まだイズの力について認めたくない部分があるのだろう。これまですべての作戦で大したことをしていないのだ、仕方ないことではある。
荼毘は一口肉じゃがを食べると、動きを止める。
「…うまい」
「え、ありがと」
まさか普通に感想を言ってもらえるとは思っていなかったので、今度はこちらも驚いた。荼毘はその後ぱくぱくと食べ進めていく。
体格が良いので食べないわけではないだろうと思ってはいたが、ご飯をおかわりするくらいにはどんどん食べていくので、なんだか猫が懐いてくれたような不思議な感慨が沸いた。
そうして完食されたのち、荼毘、イズの順にシャワーを済ませると、夜も遅い時間となった。テレビは一応あるが、必要な情報だけニュースで得れば切ってしまう。
荼毘がバラエティーで声を上げて笑っていれば面白いのに、なんて思っていると、シャツ姿の荼毘はおもむろに話しかけて来た。
「……お前、何者なんだ。目立った戦いは見てないし、なんならお前の個性も知らねぇ。仕事で殺した、なんて言ってたが、まだ10代だろ」
一緒に暮らすとなって距離が近くなったからだろう、荼毘はついに聞いてきた。今までは適当にイズがはぐらかしていたが、2人きりとなればそれも通用しない。だが、イズに応える気などなかった。
「企業秘密。今までどんな依頼であっても、俺の個性はもちろん、これまでの人生や事情は全部誰にも言ってないよ」
「それじゃもう通らねぇだろ。依頼主は牢屋ん中、これじゃお前を信用なんざできねぇ」
「俺があの怪物を出し抜こうとしてるとでも?」
「そんな大層な話じゃねぇ、なんも知らねぇ相手を信用できるかってことだ」
どうやら荼毘は何かを疑っているわけではなく、単純に素性が知れないまま近い距離で過ごしていたくないだけのようだった。まぁ、それも当然だろう。
イズは布団の上であぐらをかくと、荼毘に向かって挑発的な笑みを浮かべた。
「んー、それじゃあチャンスをあげよう」
「なんだ」
「俺のことを抱いて、俺より先にイかずにいられたら、質問に答えてあげる。まっ、そもそも俺相手にその気になって、なおかつ俺を先にイかせられればだけどね?」
「…頭沸いてんのか」
「一番現実的に相手の要求を退ける手なんだよ、俺にとってはね」
つまりはそれだけ言うつもりがないということだ。これで諦めればそれまで、もしその気になったとしても、イズが負けることはない。
「どんだけ遅漏だよ」
「はは、俺が遅漏なんじゃなくて、相手が早漏になっちゃうだけ」
ニヤリ、として言ってやれば、荼毘も面白そうな色を浮かべた。「へえ、」と言いながら、布団に乗って、そしてイズをどさりと押し倒す。
目の前に迫る端正な顔。継ぎはぎになってもその綺麗な造形は保っているようだった。イズよりも大きくて均整の取れた体が覆いかぶさる。美形を相手にするのは久しぶりだな、なんてことを思った。