京都不浄王編/前編−9



「い、いやぁ〜、お弁当美味しいなぁ、ネッ」


ジュースを飲む燐に、沈黙を破って廉造が顔をひきつらせながら何とかそう言った。なぜか燐は不機嫌そうで、ジュースを飲みながら眉間にシワを寄せていた。ほんのり香る匂いに、ひょっとして、と思って缶を見てみれば、それはアルコール5%のチューハイだった。確実にシュラが間違えて渡したのだろう。
飲まないでおこう、と朝祇は見なかったことにして燐たちの会話を見守る。


「…それはいいんだけどさぁ、お前遠くね?」

「えっ、えー?そう?」

「お前も俺にビビってんだろ!!」


燐と朝祇が座る岩から8メートルほど離れたところに座っている廉造に、燐はそう追及した。廉造は笑みを相変わらずひきつらせてやんわりと否定した。


「ははは、いやいやいや、ビビってへんよ〜!まぁ強いて言えばめんどくさいのが嫌いなんや」

「めんどくさいのが嫌い〜?ダッセ!まぁお前ってカッコ悪いもんな〜」

「………ん!?今俺カッコ悪い言うた!?聞き捨てならんな!俺はカッコええことで有名な男やで!!」

「はぁ?お前が?あっははは!!あはははは!!ヒッコ、うははは」

「笑いすぎやろ!?」


燐はゲラゲラと笑い、廉造は憤慨する。まぁ、朝祇としても廉造より燐や勝呂の方が男前だとは思う。廉造の良さはそこではない、とも思っているのだが。


「いーか?俺のかっこいいやつランキングではお前はこの辺だ」


そこで燐は小さく折り畳まれてヨレヨレの紙を取り出した。かっこいいやつランキングとやらで、なぜこれをポケットに忍ばせているのか謎である。

そのランキングは、1位が「ジジイ」、2位が勝呂で、3位に子猫丸と朝祇の名前を書いてくれていた。次に燐、クロ、雪男と続く。燐は紙の下部を指差していた。


「クロより下!?」

「いや…選外だ」

「へぇえ!?ひどいわ!!」

「しょーがない。これは、れっきとした事実」


もはや紙の範囲ですらないと示したことに廉造は立ち上がって怒ってみせるが、燐は変わらず笑う。
それにつられ朝祇が耐えられず吹き出し、やがて廉造もぶっ、と笑いだした。


「なんやこれ…なるべく関わらんどこ思てたのに…くく、いつの間にやら普通に喋ってもーてるやんか!ははは」

「廉造、結構普通に喋ってたけどね、何気ない相槌とかで」

「そうやったっけ?まあ、関わらんようにする方がめんどくさいわ!やめややめ」

「…そーだぞ、諦めろ。どーにもなんねぇんだから。笑っとけ笑っとけ、ふはは」

「ははは、そーするわ…坊にしろ子猫さんにしろ、みんなマジメすぎるんや」


それは朝祇も感じることだ。青い夜で落ちぶれた明陀宗のことを考えるあまり、言動にそれが現れてしまっている勝呂と子猫丸。青い夜の被害にあっていない上につい最近この世界のことを知った朝祇には、推して図ることしかできないが。


「一ノ瀬と出雲だけだぜ、最初から態度変わらなかったの。一ノ瀬なんて平然と俺の肩で寝やがったしな」

「まぁ俺はね。寝心地悪くなかったけどちょっとうるさかったかな」

「何様だっつの!」

「サタンの息子様に怒られた」

「なんだそれ!」


くすくすと笑うと、廉造がずんずんと歩いて朝祇の腕を引っ張って立ち上がらせる。食べ終わった弁当の空箱が転がった。


「もー我慢ならん!仲良すぎやろ!朝祇は俺のなんやけど!」

「あーわりぃわりぃ、お前のモンだって知ってっから安心しろって」

「それならええ…ってなんで知っとるん!?」


廉造に抱き締められているため耳元で声が響く。そういえば言ってなかったな、と朝祇から説明することにする。


「奥村兄弟には料理教室してもらってるときにバレちゃったんだよね。ほら、俺は奥村の正体知ってたからバラされることもないだろうって」

「あっ、そーなん」

「ごめんな、言ってなくて。でもこの話すると奥村の正体のことも言わないといけなくなるかもだったから言えなかったんだ」

「…それはええけど、やっぱイチャイチャし過ぎや」


むすっ、と廉造は朝祇のことを再度抱き締める。燐はため息をついて、手をヒラヒラと振った。


「そういうことだから、イチャつくならよそ行けよ。弁当片付けといてやっから」

「そうさせてもらいますわ」


廉造に手を引かれ、朝祇は出張所の奥へと連行される。


暗い廊下を歩きながら、拗ねたような廉造にくすりと笑ってしまう。それに廉造は立ち止まり、くるりと振り返る。


「朝祇!俺怒って、」


それを遮り、朝祇は廉造の唇に自身のものを重ねた。ちゅ、と音を立てて離れると、呆然とする廉造に抱きついて肩に顔を埋める。条件反射で廉造は抱き締めた。


「俺だって、杜山さんとか神木さんに色のいいこと言ってるかっこいいことで有名な廉造に嫉妬してんだけど」

「え、あ、朝祇…?」

「…よし、もう疲れたし寝よう」

「お、おん…」


今度は逆に廉造を引っ張って、朝祇は割り当てられた寝室へと向かった。


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