京都不浄王編/前編−10


翌朝、朝祇は廉造とともに宴会場へ向かった。食事が並べられており、各自そこで食べることになっているからだ。
昨日は制服だったが今日は私服である。廉造は襟と袖の縁に模様がついたポロシャツにベージュの七分丈のズボン。朝祇は黒のスキニーパンツに青と白の縦縞のリネンシャツを来ている。

広大な部屋にずらりと並べられたご膳の片隅に燐がいるのが見えたため、2人はその正面に並んで座った。


「おはよー奥村君、昨日ちゃんと部屋戻れたん?」

「覚えてねー…」

「あっはっはっは!やっぱりなー、一応俺飲まんどって正解やったわー」

「てか奥村寝癖すごいな」


燐の髪は両サイドが立ちあがり猫耳のようになっている。
朝祇は喉が乾いていたためとりあえず置かれていた水を飲み干し、机の端に移動してピッチャーから注ぐ。


「お前、俺と普通に話しちゃって平気なのか?」

「あぁ、」


勝呂たちに気を遣う必要はないのか、という意味合いだろう。なんと答えるのか、と思ったところで、何やら大きな声がフェードインしてくる。


「れぇぇええんぞぉぉおおりゃあ!!!」

「いっだぁ!!!」


華麗なドロップキックが廉造を吹き飛ばした。座布団を転がしながら飛んだ廉造は、その犯人に涙目で怒鳴る。


「いきなり何するん金兄!!」

「何て…飛び蹴りやろ、お前アホか?」

「お前がアホやドアホ!!」


飛び蹴りをかましたのは金造で、廉造の言葉にポカンとしている。色んな意味でアホだ。その後ろからは爽やかに笑う柔造もやって来る。


「廉造!元気そーで何よりや!」

「おげっ、柔兄も…」


昨日は宝生との口論でまともに挨拶しないまま廉造たちは下がったため、まともに話すのは今朝が初めてなようだ。朝祇はそのときに挨拶をしているため、席に戻りながら朝の挨拶だけしておく。というか、たまたま水を汲みに席を離れていて良かった。巻き込まれるところだった。


「おはようございます、柔造さん、金造さん」

「おはようさん、よう眠れた?」

「はい、素敵な旅館なので。お二人とも体は大丈夫なんですか?」

「金造様にかかれば魔障なんぞ屁でもないわ!」

「もともと軽度やったからな、今日から現場復帰や…おっ、」


そこで、柔造は少し離れたところに座っていた子猫丸に気付いた。燐がいるからかこちらへ来る様子はない。


「子猫、お前そないなとこで何してん、こっち来て一緒に朝飯食おうや」

「あ……僕もう終わるんで……!」


そう言うと子猫丸はこちらには来ないでその場に留まって俯く。確執を知らない柔造は「反抗期かいな」と少しずれたことを言っていた。
その原因である燐に、ようやく金造が気付いた。


「誰やこいつ」

「あー、こちらお友達の奥村君!」

「おお〜そーかそーか!俺は柔造、廉造の兄貴や」

「ど、どーも!」


柔造は燐の隣に、金造は朝祇の隣に座り箸をとる。兄弟の紹介をし、柔造たちも食べ始めた。
金造は物凄い勢いで食事を掻き込み始め、およそ食事の音では出ないだろう激しい音を立てながら豪快に食べている。


「せやせや、奥村君、朝祇も、これからプール行かへん?俺ら今日1日お休みらしいんよ!暑いし、女子誘ってプールええやろ!」

「じょ、女子誘ってプール…?」


燐は何やら考え出したが、朝祇はちょっとなぁ、と躊躇う。暑いからこそ外に出たくないのである。


「…いや、俺は遠慮しとく」


すると燐も断った。しえみと何やらあったようで、それをネックに感じているようだ。廉造はそれも察知したのか、説得しにかかる。


「まま、そー言わず!役割分担しようや。俺は出雲ちゃん担当するさかい、奥村君は杜山さん誘わはったら?仲良うなるええチャンスやん!」

「志摩…お前って、むちゃくちゃいいやつだな!!」

「よーやっと気付いたんか、俺はいいやつで有名ないい男やで」

「よしじゃあさっそく…!」

「それってアタシもお誘いあるのかにゃ〜」


するとそこへ、シュラが燐の後ろ襟を掴んで若干持ち上げた。寝癖と尻尾も相まって猫のようだ。


「燐お前修行は?昨日やったのか?」


そこから修行とやらを巡り燐とシュラは軽い口論になった。何となく燐の方が正論な気もしたが、最後はシュラが押しきった。
燐は済まなさそうに廉造に向き直る。


「志摩わりぃ!今度また絶対な…」

「ええよ〜」


燐はそのままシュラに連れられて退室した。それを見て柔造はやはり爽やかに笑う。


「はっはっは、色々おもろい子ぉやな!」

「おもろいやろ色々〜。てか修行てなんやろ」

「修行ね…よし廉造!久々に兄ちゃんと手合わせするか!」

「遠慮します」


廉造は硬い声で誘いを断ると、がばりと朝祇の方を向いた。


「せや!朝祇はプール行くやろ!」

「なんでだよ…てか神木さんと行けばいーじゃん」

「え…あっ、いや、そういうんやなくてな、あれは奥村君誘うためで、」

「俺は柔造さんに手合わせお願いしようかなぁ」

「おっ、ええな〜」

「いや朝祇は手騎士か竜騎士やん!?てかホンマごめんて!!」

「おっ、廉造別れるんか?俺んとこ来てええで〜」


会話を聞いていたらしい金造はニヤニヤとしながら朝祇を後ろから抱き締める。廉造はその腕を引き剥がしにかかる。


「女好きが何言うてんねん!」

「いや朝祇君ならイケるってだけや。付き合いたいとは思わんて」

「より最低やった!!」


廉造は朝祇を金造から剥がすことに成功すると、朝祇が食べ終わっていることを確認して立ち上がらせる。


「先戻っとって!てか食べるの早いな!?」

「なんか金造さんが気づいたら横から…まぁ、朝あんま食わないからいいけど。とりあえず戻ればいいんだろ?」

「朝祇君またな〜」

「廉造飽きたら言うてや〜」


柔造と金造に手を振られ、苦笑しながら会釈して朝祇は寝室に戻ることにした。朝から濃い時間だった。


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