京都不浄王編/後編−4
朝祇たちも勝呂たちに追い付き、第一独居房舎という地下施設にやってきた。看守たちのいる場所の手前でフードを被り、完全に姿を消す。
互いの姿が見えないのを確認し、一同は看守の間を抜けて牢屋の前、ネジや手錠、歯車などをあしらった、やたら派手な扉に揃った。
すると、扉が喋り出す。
「俺様は一番防御力が高い牢屋(ダス シュタルクステ ゲフェングニス)!!しかし鍵は内側からは開かないが外からは簡単に開く。さてここで問題です!!」
「え、なにこのキャラ」
廉造が引いたようにツッコミを入れる。どうやらこの扉は悪魔のようだ。
「どうして防御力が高いのでしょうか!試しに俺様に戦いを挑んでみろ!ニヒヒ」
「いや、そんな挑発、」
朝祇はあからさまな誘導に、さすがに乗るわけないだろうと呆れるが、勝呂たちは違った。各々が戦闘準備に入った途端、「カァッ!!」と扉は力を発動させ、なんと朝祇としえみ以外の動きを止めてしまった。
「正解は俺様に敵意を持って近付く者の動きを止めることができるからでした!これが俺様の名前の由来だ!」
「そんな…!あれ、じゃあ私はどうして何にもなってないの…?」
誘導だと気付いて構えなかった朝祇は別として、なぜしえみは動きを止められていないのか。
扉は嘲笑する。
「お前は敵じゃないからだ!弱いし武器も持っていない!」
しえみは俯くが、手をぎゅっと握り締めて勢いよく顔を上げる。
「扉は外からは開くんだよね?」
「あぁ開くとも!出られないけどな!」
「一ノ瀬君、私、中に入るね」
意を決したようなしえみに、本来ここは朝祇が行くべきなのだろうが、そう言うのは憚られた。しえみだって祓魔師を目指す候補生なのだから。
「…分かった。必ず、15分経ったら一度戻ってきて。戻ってこなかったら俺が入る」
「うん、お願い」
しえみは頷いて、頑丈な扉を開け、中の異次元空間へと入っていった。
待っている間、朝祇は黄龍に話しかける。
(外はどうなってる?)
『すでに金剛深山の不動峯寺は完全に飲み込まれた。洛北の瘴気は一般人の許容範囲の7割近くに達している』
(まずいな…黄龍は?大丈夫?)
『相当な穢れが広まっている…大丈夫とは言えないが、だが、この地を守るのは…我の仕事だ』
(この街を出たいって言ってたのに?)
『それはお主も同じだろう』
黄龍の言う通りだ。
引っ越してきたばかりの頃はあれほど東京に帰りたがっていたのに、今や京都は守りたい故郷といっても良かった。それは、黄龍も同じだと思ってくれているらしい。
『我に力さえあれば…』
(…後で考えよう。自分を犠牲に、なんて思うなよ)
持っている力を出しきってでも街を守ろうとするかもしれないのは分かっていた。やはり、神様と崇められていただけある。
そこで突然、扉から青い炎が吹き出し、バラバラにはじけ飛んだ。
青い炎を纏って出てきたのは、燐だ。
同時に勝呂たちの動きも元に戻り、突然現れた燐と壊れる扉に驚く。
燐も扉の前に並ぶ塾生たちに、少しだけ炎を纏わせながら驚きの声を上げた。
「みんな助けに来てくれたのか!?」
「ぼ、僕は奥村君に死んでもろたら困るんや…危険やないって分かったら、仲直りするんやさかい」
「子猫丸…!」
「言っておくけど、私は霧隠先生の指示に従っただけだから」
「俺は朝祇のためやで!」
「み、みんな…!とにかくありが、ぐえっ!?」
そんな燐の横腹をどついたのは勝呂だった。燐は勝呂を見上げ「ひょえっ」と変な声を出す。
「…親父の件に関しては、俺が冷静やなかった。お前の言う通りや。親父の件に関してはな!」
達磨のことだけだと強調した勝呂は、倶利伽羅を燐に向けて突き出す。
燐はおずおずと受け取った。
「お、俺こそ、殴ってすまん…」
どうやら勝呂を殴ったのは燐だったらしい。何の確執があったのかは分からない。勝呂は燐の謝罪には応えず、くるりと踵を返して歩き始めた。
「金剛深山までは案内したる。後はお前の勝手や、好きにしぃ。俺は俺で戦う」
「……勝呂、俺を信用してくれ」
焦ったように言う燐に、勝呂は動きを止める。燐は続けた。
「サタンの子なのは変えらんねーけど、必ず炎を使いこなしてみせる。だから俺を信じてくれ!!」
「そんなんどうでもええんや!!…俺がお前を許せへんのは、そおいうこと全部一人で背負い込んで、先に他人扱いしとったんがお前やからや…!そないなやつ、どう信じろっちゅうんや」
勝呂は振り向いて、燐の目をしっかりと捉えて怒鳴る。それは、勝呂の怒りの、実に簡単な理由。
「味方や思うとったんは俺だけか!!」
先に言わなかったのは燐の方で、信じてそれを言ってくれなかったことに怒っていたのだ。それは、これまでの勝呂の言動を見れば分かる。ずっとずっと、勝呂は仲間を信じろと言っていた。信義に篤い男なのだ。
勝呂は言い終えると再び歩き出す。子猫丸たちもそれに続いた。
「行こう奥村、霧隠先生や明陀宗の人たちもみんな戦ってる。俺たちも、"みんなで"戦おう」
勉強合宿や林間合宿で散々言われたことだ。燐は深く頷き、「ありがとな」と笑ってくれた。
看守たちをすり抜け、一同出張所の外に並ぶ。洛北を見れば、京都タワーや周辺のビルの向こうに不浄王が復活しつつある山の影がうっすら見える。真夜中の夜空に、その不気味な明るさが立ち上がっていた。
「目指すは洛北金剛深山、倒すは不浄王や!!」