京都不浄王編/後編−7
麒麟に乗った三人は、森をものすごい勢いで駆け抜けていく。朝祇の後ろの燐は楽しそうに、一番後ろの勝呂は「死ぬ」とうわ言のように呟いている。
しかし不浄王の近くまで来ると、すでに城廓のような姿となったそれに思わず麒麟を止めてしまった。
「な、んだこれ…」
まるでインドや東南アジアの古代建築のようだ。それがすべて小規模な胞子嚢でできてさえいなければ壮麗だと言えた。
「はよせんとまずいかもしれん…!」
焦る勝呂の言葉に頷いて麒麟を動かそうとすると、足元から猫の必死な鳴き声が聞こえた。聞き覚えのあるそれを辿ると、クロだった。
今は悪魔を2体召喚しているため、黄龍の翻訳はいわばオフにしている。クロの言っていることは鳴き声にしか聞こえなかった。
燐はいつも通り会話をしている。
「…クロはなんて?」
麒麟に聞いてみると、くすりと笑って麒麟が答えてくれる。
『山がとりつかれてて危ないから逃げろって。可愛いね』
必死そうなクロに少し癒されたが、突然クロは巨大化した。麒麟よりも一回り大きい。
「クロ…なんていいやつだ!」
「…なんだって?」
『ついてくってさ。どうする主様、分乗してもらった方が速いかも』
「分かった、そうしよう。…燐、勝呂、スピード出すために二人はクロに乗ってくれ」
「分かった!」
「…マジか」
燐は軽快に飛び降りてクロに乗り、勝呂は渋々乗り換える。絶叫マシンは苦手なのだろうか。
軽くなったところで、朝祇が乗る麒麟と燐たちが乗るクロは大きくジャンプし、不浄王の城の上へと飛び上がる。
浮遊できる麒麟と違い、クロは一度着地してから跳躍する。そのため、まさにジェットコースターのような乗り心地に燐ははしゃぎ勝呂は死にそうになっていた。
しかし城に着地すると、そこから胞子が伸びてきて追い掛けてくる。
「冀うは朱夏が烈火」
そこで朝祇はグロック18Cに炎駒を宿し、火炎の銃弾を放って援護した。
すでに胞子嚢は10階建て以上のビルに相当する大きなものになっている。時間がない。
クロは胞子嚢に近い岩場に着地した。麒麟も同じところに着地する。周囲は胞子に埋もれ、こちらへ伸びてきた。眼前には巨大な胞子嚢が聳えている。
「よし!ここで勝負決めよーぜ!」
「…お前、また自暴自棄になっとるんやないやろうな」
勝呂は岩場に降りと、クロの上にいる燐にそう投げ掛けた。朝祇は麒麟の上に留まって辺りの胞子に銃弾をぶちこみながら話を聞く。
「……なってねーよ、今は。つーかお前こそビビってんじゃねー!!」
勝呂はそれを聞いて反駁しようとしたが、燐はそれを遮って続ける。
「多分みんな、今頃やれることやってんだろーから、俺たちもやれることやろうぜ!勝呂姫は結界作るのに集中しとけ!」
にやり、と倶利伽羅を肩にかけて笑う燐の男前っぷりにはもはや脱帽する。この状況でよくそこまで言えるものだ。
だが姫というのは勝呂に似合っていなさすぎて、笑えてきてしまった。
「だ!?誰が姫やどつき回すぞ!!」
「ぶっ、くく、勝呂姫って…!」
「何笑うてんねん一ノ瀬!!」
「メソメソしてっからだろ。俺だってお前みたいなゴツイ姫の騎士なんてゴメンだよ」
「くっそ、お前なんぞに言われんでもやるわ!!」
「おう、よろしく頼むぜ!」
茶番はここまでだ、とばかりに燐は不浄王の胞子嚢へと向きを変える。不敵な笑みを浮かべてはいるものの、その握り締める倶利伽羅を鞘から抜こうとしていた。鞘はびくともしない。
それに気付いたのは朝祇だけではなかったようで、勝呂もはっとしていた。
「勝つぞ!!勝呂!!!」
それでもそう言った燐は、クロとともに胞子の海へと飛び込んだ。サタンの子だからか、胞子が付着しても問題ないようだ。
勝呂もしゃがみ込み、真言を唱え始める。無防備なところに近寄る胞子を、朝祇は高いところから次々と焼き祓う。燐は抜けないながらも、青い炎を纏わせて殴打しながら祓っていった。
やがて、勝呂は真言を完全に詠唱しきってみせた。一回聞けば覚えられるというのは本当だったようだ。
「―――ウンタラタ カンマン!!」
そして数珠をつけた右手の人さし指を地面に触れさせる。触地印といって、ここを起点に術が展開される。
「勝呂竜士、お前の結界呪、確かに聞き届けた」
迦楼羅はそう言うと、赤い炎を一際強く放って高く空へと真っ直ぐに飛び出した。フェニックスとも称されるだけあり、神々しい。
迦楼羅の炎は空から周囲へとドーム状に広がり、不浄王を完全に包み込む。これでしばらく瘴気は街へ出ないだろう。