京都不浄王編/後編−11
体の内側に膨大なエネルギーが渦巻いているのが分かる。ともすれば体が爆発しそうだ。
その胸苦しさに耐えながら、朝祇は何とか冊子の指定されたところを詠唱し始めた。
「東に流水をもって青春が相応とせしむ」
まず一文目、冊子に記された図が一文ずつ京都と街に展開されていく。
聳弧が四条河原近辺で力を発動し、その上空に巨大な光の二重円が現れる。もちろん、魔障を受けた者にしか見えない。
その円の中に五芒星ができ、五芒星の真ん中の5角形の部分に「木」という字が古代の字体で現れる。
「南に湖沼をもって朱夏が相応とせしむ」
続いて2文目。伏見近辺で同じような二重円と五芒星が出現し、真ん中には「火」と出る。
「西に大道をもって白秋が相応とせしむ」
3文目、右京区の南部に二重円と五芒星、そして「金」の文字。
「北に丘陵をもって玄冬が相応とせしむ」
そして4文目、地下鉄の終点である国際会館駅付近に二重円と五芒星、中に「水」の文字を持ったものが現れる。
「央に大地をもって黄土が相応とせしむ」
5文目、京都駅の北側、朝祇の家がある上空に二重円と五芒星、「土」の文字が浮かんだ。
「五神の守りし地において人の営みの栄華たるは、これ即ち永久(とこしえ)なるべし!」
そしてついに、最後の文まで詠唱し切った。それと同時に、朝祇の中から黄龍の力の大部分と、朝祇の力のほとんどが抜き取られた。廉造からも力が抜かれたようで、揃ってへたりこむ。
なんとか意識は飛ばさなかった。
「…はぁ、はぁ、一応、見に行こう」
朝祇は何とか立ち上がる。廉造も立つと、朝祇と肩を支え合いながら地下室から2階の朝祇の部屋に上がった。
窓から洛北を見ると、不浄王の発する不気味な明かりが見える他、市内の4ヶ所と自宅の真上に巨大な魔法円が浮かんでいる。
そして、その魔法円をさらに大きな円が囲み、それぞれの円の中心を結ぶように四角形とその対角線が引かれる。
その状態でやっと、この結界呪は完成するのだ。
光の魔法円が完全に成り立つと、上空から一気に薄い膜のようなものが京都市街を覆った。ちょうどこの魔法円を囲むようなドーム状だ。
ドーム状の膜となった結界は、一際強く光ったあと、見えなくなった。
『主様!成功だよ!これでしばらく街は安全だ!』
「そっ、か…良かった…」
思わず床に倒れ込むと、廉造が慌てて駆け寄る。焦った表情に小さく笑う。
「朝祇!大丈夫!?」
「大丈夫だよ。…ほんとに、ありがとう、廉造」
「…よう頑張ったな、朝祇」
廉造はくしゃりと朝祇の頭を撫でる。それが心地よくて、もう少しすり寄ってしまう。少しくらいいいかな、なんて思うと、廉造は思いきり抱き締めてきた。
「…あとは、坊と奥村君に頼むしかあらへん。もう朝祇はゆっくりしような」
「言われなくても、さすがに、疲れた」
もうかなりギリギリだ。ここまで力を使ったことはない。
だが、廉造がいなければそもそも結界すら成立しなかっただろう。
(黄龍も、ありがとう)
『礼を言うのはこちらの方だ。お主がいなければなし得なかったことだ。誇るといい』
(…うん、ありがと)
やはり黄龍は優しい。
意図せずして、黄龍の願いだった京都からの解放という目標は達成された。それでも、この街を守るために大きな力を貸してくれたこの神様が、朝祇にとっては本当に尊いものだと思うのだ。
窓の外では、洛北から依然として戦いを示す明かりが夜空を照らす。あとは任せたぞ、と朝祇は見えない金剛深山を見つめた。