京都不浄王編/後編−12
その15分程前、シュラたちは炎の結界の外に逃げてきていた。出張所や日本支部の祓魔師たちはほとんどが魔障を受け、胞子に寄生されている。
結界内で戦っていたところ、胞子嚢がついに破裂し活動限界を超えたのだ。そこで一同は結界の外に撤退し、体制を建て直すことにしていた。
「焔の結界ん中はもはや人の活動限界を超えた濃度の瘴気や…この結界のおかげで最悪の事態は免れとるが」
瘴気によって様子の伺えない結界の中を見て、蝮の父、蟒は冷静に分析する。それに、シュラが結界の高度さに疑問を持った。
「一体誰がこんな高度な結界を…?」
「恐らくおっさまや…」
これほどの結界を構築することができる者は限られている。座主の名を出した八百造だったが、それに突然大きな声で反論が返された。
「違う!!ちゃいます八百造さま、あの結界作りはったんは坊です、坊はまだあの結界ん中におりはるんです!!」
「子猫丸!?」
山道から出てきた子猫丸は、走ってきたためにぜぇぜぇと息を荒くしている。それでも大人たちに毅然と語った。
「おっさまは杜山さんと神木さんが東山道あたりで看てくれとります。お願いします、みんなを助けてください…!!」
「こ、子猫丸、廉造はどないした」
姿が見えない息子に、八百造は少し焦って訊ねた。子猫丸は市街地の方を指差す。
「志摩さんは一ノ瀬君と街に結界を張りに行きました!…あっ、ちょうど、」
その指差した方に、突如として強い光が放たれる。山からギリギリ見えるところには、二重円と五芒星の魔法円が見える。
「まさか、四神相応…いや、五神の守り地か!?」
「そんなアホな、あれは神格級の悪魔が5体も必要なんやぞ!?」
魔法円から推察した蟒に、八百造が信じられないとばかりに首を横に振る。しかし立ち上がった巨大な結界が市街地を丸々覆ったのを見て、シュラは確信していた。
「一ノ瀬は麒麟、聳弧、炎駒、索冥、角端を使役できます。先祖が高名な降魔術士だったそうで」
「あの一ノ瀬家の!?…なるほど、天賦の才っちゅうわけですね」
シュラは可視できなくなった結界に、笑みを漏らす。塾生たちの成長振りへの、恐れにも似た感嘆だ。
「ちょっと渡米しただけでこれか…いや〜、若いっていいにゃあ〜」
そう呟くと、シュラは子猫丸の頭をぽんと撫で、「よくやった」と声をかける。そして素早く焔の結界へと足を向けた。
「私は一足先に勝呂、奥村の援護に向かいます」
「よし、子猫丸に話を聞いてから精鋭を組織して応援に向かわせる!」
「頼みます」
八百造への返事が終わるか終わらないかの内にシュラは走り出す。子供たちばかりに任せてはいられない。
***
胞子嚢が破裂した結界内では、勝呂が不浄王から集中攻撃を受けていた。胞子の塊でできた腕が迫り、燐はひたすら炎で焼くも到底足りない。
勝呂は迦楼羅に対し、結界の一部を自らの結界として転用させた。
「ぐっ!?げほっ、げほっ、」
「勝呂!大丈夫か!?」
しかしそれはあまりにも勝呂への負担が大きいものだった。胞子嚢の破裂による瘴気ですでに大幅に体力を削られてのこれは厳しい。
『不浄王は生者の生気に吸い寄せられるが、火の性質に弱い。これでしばらくは寄り付かないだろう』
結界となって姿が見えなくなった迦楼羅の言葉に、燐は「そうか、じゃあ!」と顔を明るくするが、勝呂は震える声で続ける。
「その代わり、この結界はあと15分持つか分からん…!」
「15分!?な、なんでだよ!?」
「俺自身の体がもう限界なんや…正直、15分も自信ない。子猫も、志摩も…結局間に合わへんかったな…みんな、無事やとええけどなぁ…」
自嘲気味に笑う勝呂に、燐は「無事に決まってんだろ!!」と叫ぶが、不浄王の勢いは増すばかり。
伸びてきた腕が燐を捕まえようとしたところへクロが飛び込み、悲鳴を上げて胞子に飲まれていく。
「クロ!!この、やろぉおおお!!!」
燐は何とか剣を抜こうと踏ん張るが、胞子がクロを飲みこみ勝呂に迫っても、鞘から抜けようとはしなかった。それに愕然とすると、勝呂の静かな声が落ちる。