学園七不思議−4
いったん塾生たちで集まり、簡単に作戦会議を始める。とはいっても、女子がいると姿を消すらしいので、今回はしえみと出雲は控えることになる。
「ゴースト祓いで一番有効なんは詠唱や。白無垢の花嫁ってことは神前式か仏前式か分からんが…祝詞か経か、どっちかが有効やろ」
まずは勝呂が冷静に分析する。ゴーストは一度、遊園地での任務で扱ったが、死体などから揮発した気体に憑依する悪魔だ。あらゆる物理攻撃は、基本的に決定打とならない。そのため、詠唱が最も効果的だった。
「詠唱騎士志望の俺と子猫丸と志摩で、祝詞か経か片っ端から唱える」
「えー…」
それには覚えていない廉造が不満そうにぼやくも、無視された。
燐は騎士志望のため、刀を持って袋から出す。
「じゃあ俺は敵を引き付けて詠唱時間を稼ぐ!」
「それなら俺も奥村に加勢するわ」
朝祇は竜騎士と手騎士志望のため、とりあえずは燐とともに時間稼ぎに回ることにした。
残る男子は一人、勝呂は小柄な宝に話し掛けた。
「そういや宝は手騎士志望やったな。どないな使い魔使うとるんや?」
「うるせえ話し掛けんじゃねえ。勝手にやってろガキ共が!」
例によって腹話術で口汚く罵る宝に、勝呂は修羅の顔になる。子猫丸は苦笑しながら「抑えて抑えて」と諌めた。
そんなこんなで、ようやく臨戦態勢が整った。空中埠頭の後方で勝呂、子猫丸、廉造が並び、その前に朝祇と燐が並ぶ。
前方の埠頭の先には、白無垢が夜景を見ながら立っていた。
「いやぁ〜、こういうの合宿以来やなぁ〜」
「志摩さん余裕やね」
「だっていざとなったら奥村君の青い炎で一発やん?」
「集中せえ!」
燐に頼る気満々な彼氏に、思わず微妙な顔になる。燐は聞いていないようで、ずんずん歩いていって近付いた。前方から騎士、手騎士、詠唱騎士と並ぶフォーメーションは定石通りだ。
「お姉さんこんばんわ」
そして、ついに燐が話し掛ける。白無垢はそれにぴくりとしてから、ゆっくりと振り返った。
「まぁ、可愛いボーヤ!あたいが見えるの?」
厳つい骨格に無精髭、しかし唇は艶めき瞳はぱっちりと盛られている。全員がその容貌にすべてを察した。
「…オカマ?」
そして、燐はストレートに突っ込んだ。
「んもぉ!!そんな単純な話じゃないよのぉ!!」
「いだぁっ!!」
ゴーストは盛大な音ともに燐の背中を叩く。呻きながら燐は踞り、ゴーストは手を顎に添えた。その手の甲には濃い腕毛が見えた。
「あたい、生前は女の子の心持ってること隠してきたわ。お人形遊びがしたくても女の子の服が着たくても、男の子のフリして生きてきたのよ。そして、そのまま死んでしまったの。でも……」
見た目こそあれだが、社会的にはやっと大きな問題として認知され始めた事柄だ。日本はまだまだ、ジェンダー後進国と言わざるを得ない。
だが、やはり見た目が見た目なのでギャグとしか受けとめられなかった。
「自分を偽ったままじゃ、死んでも死にきれなかった…今こそ本当の自分を解き放つときだって……あたいオカマだって!!」
「オカマなんじゃねーか」
「というわけでチューさせて頂戴」
そう言ってゴーストは、近くにいた燐の肩をガシリと掴んだ。その距離感に、朝祇たちも硬直する。なんだろう、男として本能的な忌避が沸き上がるのだ。
「いや、悪いけど、初対面の死んだオカマとチューは無理だ」
「キイイ、はっきり言うじゃない…!」
男前な燐は、もはやこれ以上ないほどのストレートさで断った。微塵もオブラートに包まれていない。だがゴーストは悔しがりながらも効いていないようだった。
「でも…あたいは運命の相手を見付けるまで絶対に諦めないわ…!!」
そこでゴーストはこちらに「ハッ」と気付いた。嫌な予感がして後ずさったのは、朝祇だけではなかった。
「んまぁぁ!あんなところにも若くて可愛いボーヤたちがいっぱいじゃな〜い!…今行くわァア!!チューしてあげる!!!」
ドコドコとまるで装甲車のように走ってくるゴーストに、勝呂は慌てて指示を出した。
「志摩は念仏や!簡単やろ!子猫は法華から始めぇ、俺は祝詞からいく!」
朝祇も対応しようと、グロック18Cに角端を宿らせて構えた。相手は気体、水に同化させて体積を減らすのだ。