学園七不思議−5
しかし、勝呂はゴーストの近くにいる燐に向かって、手を合わせながら怒鳴った。
「奥村!!」
「ま、か、せろぉ!!」
「えっ、ちょ、」
それによって、燐がゴーストに斬りかかった。当然ゴーストは四散し、もう一度集まって集合してしまった。
燐は慌てて何度も斬りかかる。そのおかげで、朝祇は撃てなくなってしまった。
これでは燐に当たりかねないからだ。
「意味ないのにムキになんなよ…!」
そんな悪態をついて、なんとか狙おうとするのだが、場所が埠頭で幅がほんの4メートルほどのため、燐に当てずに狙うことができない。
「っ、おい、燐っ、て、なっ!?」
たまらず燐に声を掛けようとしたところ、後ろから腕を引っ張られ強制的に走らされた。
驚いてそちらを見ると、廉造が朝祇の腕を掴んで後方へ走り始めていた。
「坊!子猫さん!堪忍!!もうだめや朝祇!」
「おい何やってんだバカ!!」
背後の勝呂と子猫丸は詠唱中で動けない。その顔は、二人揃って般若のようだった。雪男や女子が控えるところの近くまで後退すると、廉造は逃がさないとばかりに朝祇の腕を掴み続けた。
「俺は詠唱できひんさかいもう役に立たん。朝祇かて物理攻撃が効かへんのは分かっとるやろ?」
「だからって試せるもんは試しときたいだろ!」
そう、朝祇にとってゴーストのような氣の王の眷属や腐の王の眷属は相性が悪い。基本的に朝祇は地の王の眷属である黄龍、麒麟、聳弧、索冥、火の王の眷属である炎駒、水の王の眷属である角端を従えており、使い魔の性質が偏っている。正十字騎士團の魔元素論では、地は氣に強く、火は腐に強いため、本来これらには有効だ。しかし攻撃は竜騎士としての銃への憑依によるものであるため、特に氣の王には合わない。
いちいち神格の麒麟などを呼び出していては持たないため、なるべく銃に頼りたいのだ。
今回は限られた状況下でゴーストと戦う絶好の機会だった。
「そこで坊や奥村君のためとかやないんが朝祇やな」
「そりゃあいつらも自分で何とかできるだろ」
すると、背後からしえみと雪男の話し声が聞こえてきた。勝呂たちが唱え尽くしてしまったのを見て、他の手段を考えているようだ。
その内容は、ゴーストの悔いを取り除くというもの。生前の性質に引きずられるため、確かにそれは戦わずに勝てるという点では有効だ。しかし、それはつまりチューを意味する。
「坊!子猫さん!あのゴースト、男にチューせえへんと鎮まらへんのやって!」
廉造は朝祇を置いて、二人のところにそれを伝えにいく。同時に、燐が半泣きでこちらに叫んだ。
「だめだ、俺じゃ抑えらんねー!逃げろ!!」
「逃がさないわよぉ!!!」
戦車のようにこちらへ走ってくるゴーストに、廉造たちが慌てて逃げてくる。だが、ゴーストは気体だけあって素早く、なんと廉造の足を掴んで転ばせた。
「つぅかまえた!!」
「ぎゃあああ!!」
勝呂と子猫丸は諦めたように数珠を鳴らした。供養モードだ。
チューをしようと廉造に迫るゴーストに、しかし朝祇は黙っていられなかった。
「俺のに手ぇ出してんじゃねぇぞオカマ野郎!!!」
そう怒鳴ると、まず一発、角端の力を宿した水の塊を打ち付ける。聖水のような効果もあるため、ゴーストは悲鳴を上げて飛び退いた。それと同時に、右手のスライドの動きだけで弾倉を外して、左手で別の弾倉を嵌め込み、すぐに廉造の正面に撃った。
着弾すると、廉造の目の前に輝く結界が出現する。魔法弾だ。
勝呂にお願いをして、詠唱して結界を弾に封じ込めておいた。離れたところに再出現したゴーストは、キッとこちらを睨み付けた。
「あんたたちは運命の相手と結ばれたってことね…!羨ましい、羨ましいわ!!」
その言葉が、少し刺さった。
別に朝祇や廉造は男が好きなわけではなく、むしろ女好きな方だ。それでも、互いに惹かれてしまった。好きになったのが、たまたま同性だっただけであり、性別ではなく廉造自身が好きになったのだ。
それでも、このゴーストがどんなに生きづらい人生を歩んできたのかと思うと、他人事に思えなかった。
「チッ、使えねえガキ共だぜ」
そこへ、なんと宝が歩いてやって来た。どういう風の吹回しなのか。
「出でよ、着せ替え人形ミカフレンドシリーズ、ジャン花婿ver.」
「ぼくの花嫁さん、さぁ結婚式を挙げよう!」
現れたのは、小さな小麦肌に金髪の人形。その人形はそう喋り、ゴーストに手をさしのべた。その瞬間、ゴーストは目を見開いて、そして、頬笑む。
彼が、いや、彼女が心残りとしていたのは、キスすることではなく、女の子のように結婚式をすることだったのだ。それを晴らすことができたゴーストは、もう悔いはないようだった。
呆気なく、ゴーストは空中に消えていった。
たった数分で片付けた宝に、雪男を含め全員が呆然とする。
「俺は傀儡師(パペットマスター)。あらゆる人形を召喚し操ることができる。称号を持ってねぇだけで、そこらの祓魔師のレベルはとうに越えてる。こんな塾退屈で仕方ねーんだ、せめて俺の手を煩わせるな!」
「そぉぉおけそぉぉおけ…もう俺は我慢の限界、」
「せやったら塾やめはったらええんや!!」
相変わらずの上から目線に、勝呂はついにキレようと拳を鳴らしたが、それより先に子猫丸がぶちギレた。勝呂は驚いて冷め、むしろ暴れる子猫丸を取り抑える。
そんな場の混乱は、雪男に凄みを効かせて怒られるまで続いたのだった。