学園七不思議−8



「よう目覚めたね」

「途中で擬態霊だって気付いてさ。黄龍に頼んで起こしてもらった」

「奥村君が絵を斬る前から、勘付いとったん?」

「まぁ」

「…そうなんや」


子猫丸に連れられて、朝祇は室内中央の勝呂たちが集まるところに向かった。床は小型の四足歩行の極彩色をした悪魔で埋め尽くされているが、そこだけ円を描いて悪魔がいなかった。どうやらこの悪魔は、後醍院が玄関で倒れたときにいたやつと同じようだ。
朝祇が勝呂たちの輪に入ると、子猫丸は最後に燐を回収しに行った。他は全員揃っていて、目を閉じて擬態霊を見ないようにしている。

程なくして子猫丸は燐も連れてきた。これで全員揃ったことになる。


「皆円陣組んでお互いだけを見て!」


子猫丸に従い、輪になって互いだけを視界に入れる。決して肖像画があった方は見ない。


「皆さん各々何か見はったかと思いますけど、気ぃしっかり持って!あれは絵に憑依した擬態霊です!」


まだ気付いていない他の者たちのために、子猫丸は状況を説明した。勝呂はなるほど、と納得する。それぞれが見たものの説明がついただろう。
子猫丸が無事に結界を張れたのは、念のため燐が絵を斬ったときに眼鏡を外してあえて視界を悪くしていたからだ。視覚を通して作用する悪魔なのは与えられた情報ですぐに分かるため、有効な手段といえる。


「さすが子猫丸や…敵の正体が分かれば話が早いわ。擬態霊の致死節は5つ分かる。全部唱えればどれかは…」

「…坊!」


いつものように勝呂が立案を始めると、意を決したように子猫丸がそれを遮った。


「この結界は長くは持ちません。み、皆さん、僕の話を聞いてもらえますか?」

「……お前がずっと何かを溜め込んどったんは知っとる。言うてみぃ!」


最近、どこか考えるような素振りが多かった子猫丸には気付いていた。それはやはり勝呂も同じだったようだ。
子猫丸は小さく頷いて、息を吸い込む。


「坊……ワンパターンです!」


その瞬間、空気が凍った。特に廉造は驚愕のあまり震えだす。


「詠唱の知識が豊富すぎて何もかも詠唱で片付けようとしはるんは坊の悪い癖や。それに……自分ひとりで皆をまとめなて気張る必要はあらへんと思います…!」


聞きながら、徐々に勝呂の顔は強張っていった。落ち着いて聞いているだけ普段の勝呂からは考えられない。
それに廉造があわあわとしていると、子猫丸は廉造に矛先を向けた。


「志摩さん」

「ひっ!?」

「志摩さんはなんで詠唱騎士目指してはるん?」

「え?いやぁ、坊と子猫さんに合わせた結果っちゅうかなんちゅうか…」

「今のままやと認定試験落ちるで」

「まぁ、そんときは残念でしたーってことで…」

「志摩さんは騎士やろ!なんで本気で目指さへんの!?」


珍しく、廉造は本気で顔を強張らせて動揺した。困惑した、という方が正しいか。それは朝祇も気になっていたことで、そして、何となく答えに察しがついていることでもあった。思わず顔を伏せると、子猫丸は「一ノ瀬君」と呼んできた。順番が巡ってきたようだ。


「一ノ瀬君は頭良うて実力もある。せやけど、何考えとるか分からん」

「…、」


それはよく言われることだった。ひとりで考えをまとめてしまうことが多く、自己完結してしまうのだ。


「一ノ瀬君は、奥村君のことも不浄王のことも知っとって、僕らに言えへん秘密がたくさんあると思う。せやけど、それを理由に一歩後ろでいつも客観的に見てばかりでいて欲しくないねん。たとえ秘密やって言われても、確かに気にならんわけではないやろうけど、言わない方がええて判断した一ノ瀬君を僕らは信じる」


同じようなことは、不浄王のときに勝呂にも言われた。黄龍に聞いて秘密を知っていたことを、勝呂は「その上で最善を選べるやつやから」と言って受け入れてくれた。


「せやから、考えとること少しでも言って欲しい。手騎士で竜騎士なんやさかい、中距離で前衛と後衛繋ぐ役割やろ、隠されてもうたら円滑に進まん」

「そう、だね…」


確かに、朝祇はあまりにも言葉が少ないかもしれない。いつも後ろで傍観していたし、考えていることを言わなかった。多くは言えることではないからだが、隠すことを決めた朝祇を信じてくれるのだと言う。その上で話を聞いてくれるのだと。
仲間を信じるということは、存外様々な形態があるようだ。まだまだ朝祇も子供で、気付いていないことなどたくさんあるのだと痛感した。


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