学園祭と″そのとき″−5
それから3日、廉造と燐はずっとダンスパーティーのパートナー探しをしていたらしい。どうやら、ダンスパーティーに行かない塾生たちの中で唯一行くことにしたのが廉造だったようで、燐とパートナー探しの旅をしている。
しかし廉造の女子友は全滅だったらしく、最後の砦の朴もダメだった。
3日に渡る奮闘も虚しく、2人は海外のゾンビドラマのエキストラのようになっていた。つまりはウォーキングデッドである。
「おはよう奥村君…あれから面識ない子20人近く声かけたけどダメやった…つらい…生きるってつらい…」
いつも通り4人で登校していると、出くわした燐と廉造は揃って死にそうな顔になっていた。
「すげーや志摩…俺なんてクラスの女子2人に断られただけで心折れたぜ…」
しかし、ウォーキングデッド化しているのは2人だけではなかった。苦笑して子猫丸が挨拶したのに返した燐は、その後ろの存在に気付いて仰天する。
「どーしたんだ勝呂!?お前こそウォーキングデッドみてーになってんじゃねーか!!」
「えーっと、坊もダンスパーティーの件で悩んではって…」
「えっ、勝呂行くの!?」
「いや、2人には言いにくいんやけど…」
目に隈まで作って溜息をつく勝呂。だが勝呂の悩みは、ダンスパーティーに行きたいなどということなどであるはずもなく。
「同じクラスの女子に誘われて断らはったんやけど、泣かれてもーて…心に深いダメージを受けたんです」
「俺達とは悩みの次元がちげぇ!!」
「貴様は我らウォーキングデッドの風上にも置けぬ…学園祭に青春のすべてを捧げる戦士全員の疲れはてた魂から呪われろ!!!」
純粋に悔しがりつつ「かっけーな!」と認めてもいる燐とは違い、廉造はゆらりとしながらそんなことを宣った。
「呪われとるのはお前らの方やろ…学園祭なぞ魔羅の所業も同じ…!」
勝呂も勝呂で涅槃に片足を突っ込んでいるだけあって、慣れない事態に動揺しているようだ。魔羅、仏教における仏道修行の妨げとなるものが学園祭だと断じた。
「さ迷える魂にせめて安らかな終焉を!!」
「どこ目指してはるの!?」
喝、と左手を顔の前で掲げる勝呂に子猫丸が突っ込む。そこからはやいのやいのと廉造、燐vs勝呂の口論が続く。子猫丸では手に負えないだろうと朝祇が仲裁に乗り出すことにした。
「まあほら、持って生まれたもんは仕方ないじゃん?」
「うわ出た!そっち側の余裕!」
「俺はほら、兄貴が危篤だからさ、燐お兄ちゃん」
「誰がお兄ちゃんだ!」
「一ノ瀬頼む、断り方レクチャーしてくれへんやろか」
「坊!なんてこと頼んではるんや!」
「お父さんの頼みなら…」
「誰がお父さんや!」
まあ仲裁できるわけもなかった。ウォーキングデッドに言論説得などできるはずがない。そんな場を納めたのは、意外な人だった。
「みんなおはよう〜!」
「えっ、しえみ!?」
なんと声をかけて来たのはしえみ。黒いカーディガンに白いニーハイと制服姿だ。髪が伸びて大人っぽくなったな、とは思っていたが、制服姿だと改めてそれを感じた。つまり可愛い。
「私、これから皆と同級生だよ!よろしくね!」
どうやら中途入学試験に合格したらしい。これまで祓魔塾だけ通っていたのが、これからは学園の方にも通うことになる。それはつまり、学生になるということで。
「ついに俺の時代が到来した…しえみを誘える!!」
「到来とか知ってたんやな」
「ええ顔しとるわ〜」
「頑張れー」
大本命のしえみを誘えることに、燐は不敵な笑みを浮かべた。
しかしその放課後、燐はもう死体と見紛うばかりの風体で朝祇たちの部屋を訪れ、ソファーに横になった。魍魎でも出ていそうだ。
迎えた廉造と朝祇は、その反対側に座って事情を聞いてみる。
「あー…どーしたんだ奥村」
「…しえみに断られた。雪男のこと誘うんだって」
「奥村先生を?意外やなぁ、」
「最近、あいつなんか悩みあるっぽくて。俺が聞いても答えねえし。しえみは気晴らしになるといいからって、誘うらしーんだ」
「あー…杜山さんっぽいね」
恐らくしえみに、その言葉以上の意味はない。純粋に雪男が心配で誘うはずだ。こればかりは当事者たちの問題なので慰めることしかできない。
子猫丸もやって来て事情をかいつまんで話せば、子猫丸も同じ結論に至ったらしい。
「奥村君、俺のとっておきのエロ本貸そか?」
「今はいい…」
「奥村君ぽんちゃん行こか?」
「玉子カレーもんじゃ好きだろ、奢ってやるって」
「うん…」