学園祭と″そのとき″−6


10月2日金曜日、いよいよ学園祭の前日となった。
どのクラスも準備の最後の追い上げに勤しみ、朝祇のクラスも食材調達やら内装やらで慌ただしい。祓魔塾の方も、講師の祓魔師たちが警邏隊を組んで学園の警備にあたるため、その打ち合わせもあって休みになった。

朝祇と廉造は、メガネ喫茶の接客担当だ。廉造は廊下での受付、朝祇は室内でのホールをする。衣装に統一性はないらしく、それぞれに合ったものを身につける。ただひとつ共通なのが、メガネをつけることなわけだ。メガネメイドもいれば猫耳メイドもいる。
廉造は外資系リーマンメガネである。そのわりにチャラい。そして朝祇は執事メガネだ。
燕尾服のような黒を基調とした執事服に、シルバーの伊達メガネをつける。

今日は衣装合わせを行うため、接客担当が全員本番の衣装を着せられていた。非日常的な装いに、皆テンションが高い。女子はずっと騒いでいた。


「廉造お前、服は出来そうなのに…」

「なんやねん朝祇!はっきり言えばええやろ!」

「頭悪そう」

「傷付いた!」


はっきり言えといったのはどっちだ、なんて笑い、白い手袋をつける。これで完成だ。


「朝祇はあれやね、エロい」

「え、執事でエロいてダメじゃね?」

「背徳的やな」

「なんだそれ」


笑っていると、メイド服を着た女子のグループがキャッキャッとしながら寄ってきた。行事のテンションに任せて普段話さない人と話せるアレだろう。


「写真撮ろ〜!」

「おっ、ええな〜」


セルカ棒を早くも持参した女子が、スマホをインカメラにして翳す。廉造と2人で女子たちの後ろに並びフレームに写った。カシャリ、と音がするとすぐさま女子は「インスト載せるね〜」と騒ぐ。


「あっ、そうだ一ノ瀬君!あれやってよ、お帰りなさいませってやつ!」

「見たい見たい!お願い!」

「やばー!」


さらに女子たちは騒ぐのをやめず、そんなことを頼んできた。正直、内心ではふざけんじゃねえと思ったが致し方ない。
頼んできた女子の前で軽く腰を折り、右手を胸に当てて頬笑む。


「お帰りなさいませ、お嬢様?」

「きゃーー!!!やばーい!!」

「やばー!!!」

「やばいんだけどやばーい!!」



語彙力が低い。
顔が引き攣りそうになるのを堪えて苦笑すると、廉造が肩を組んできた。ちょっと不機嫌そうなフリをしている。


「朝祇のご主人様は俺やねんけど〜?」

「そっかごめ〜ん!あはは!」

「彼ぴっぴに怒られたわ〜!」

「尊い……」


笑う女子たちの後ろから、別に語彙力の乏しい声が聞こえてきたが無視だ。なんか頭悪くなった気がする、なんて思っていると、衣装担当の生徒が確認しにやって来た。


「はいイチャイチャしないで〜確認するよ〜」


女子は手際よく寸法を確認し、簡単に「ここきつくない?」などと聞いてから問題ないと判断したらしい。


「2人とも大丈夫!今日はもう帰っていいよ!」

「えっ、そうなの?」

「うん!明日働いてもらうしね!じゃっ!」


衣装のことさえ大丈夫なら、もうやることはないらしい。廉造と顔を見合わせてから、おとなしく帰ることにした。


***


制服に着替え、慌ただしい学校を出る。10月になって急に秋めいた空には、学園のあちこちから巨大な風船がロープで空中に浮かべられていた。
まだ時間としては昼休みで、ここで帰る生徒はほとんどいない。


「坊と子猫さんは遅くまでかかる言うてたな」

「そうだな、特進は脱出ゲームだから内装凝ってるんだもんな」

「子猫さんはプラネタリウムやけど、説明担当やさかい打ち合わせが長いみたいやで」


勝呂と雪男がいる特進は脱出ゲームで、迷路のようなものをやるらしい。子猫丸は出雲と同じA組で、適当にプラネタリウムをやるそうだ。
しえみは朴と同じB組になったらしくお化け屋敷を、燐のD組はおにぎりと豚汁を売る売店をやると聞いている。

同室の2人が遅いということは、しばらく寮で廉造と2人きりということ。
何とかして今日時間を作ろうと思っていた朝祇にとっては、好都合だった。


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