学園祭と″そのとき″−9


ついに学園祭当日となった。
開会式でのメフィストの空からパラシュートで落ちてくる演出に度肝を抜かれ、開場と同時に押し寄せる人びとの群れにも驚いた。
ニュースでも取り上げられるような大規模なものであるため、全国から人が集まってくるのだ。

朝祇は、開場直後はシフトを外され、寮にいるよう指示されていた。それというのも、事前に朝祇が朝にシフトがないことを学生たちに流しておきつつ、整理券を売ることも宣伝していたからだ。
開場早々に混み合うことを避け、なおかつ確実に来てもらえるよう整理券を販売することで、客足をコントロールする狙いがあるそうだ。そんな大袈裟な、と呆れていたのだが、受付担当の廉造からメールが届く。


『今日の整理券完売☆』


まだ開場から15分ほどしか経っていないにも関わらず、朝祇のシフトがある時間だけ販売される整理券が完売したそうだ。そんな芸能人でもあるまいに、何を見ようというのだろう、とほとほと理解できない。
そう廉造に伝えると、『逆になんで芸能人やないん?』と返ってきた。よく分からなかったのでとりあえず無視した。


その後、準備もあるため昼食を食べずに教室へ向かい、11時半頃に着替えた上で教室に着いた。メガネはやはり鬱陶しい。


「あっ!あれ一ノ瀬君だ!!」

「マジで!?整理券買えなかったからラッキー!!」


すると、客として教室の前に並んでいた生徒たちが騒いだ。それに気付いた廉造が苦笑しながら手を上げる。


「お疲れさん、朝祇」

「お疲れ。…何がそんないいのかね」

「それ男子に袋叩きにされるで」


確かにモテなかったわけではないが、ここまでの扱われ方は初めてだ。ほとほと理解できない。そこら辺にいる男子の一人でしかないだろうに。

そこへ、大きなテレビカメラやマイクを持った男子たちと、手持ちのマイクを握る女子のグループがやって来た。


「こんにちは!正十字学園報道部です!」


テレビ局のクルーのような彼らは、その実まさにテレビ局並みの装備と実力を持っている。報道部は学園内で流通する新聞や雑誌、テレビ番組などを作成している部活動だ。中等部、高等部、大学にそれぞれ存在し、大規模に活動している。
特に学園祭は、一応学内の行事であることから、報道関係者の公式的な取材は不可能である。10万人以上が訪れる祭であるのにそれは痛い。そこで、報道部の映像を中心とした資料を報道機関に売ることで部費の足しとしている。
映像に映る学生をあらかじめ調整できることもあって、勝手に撮られるより安全なのだ。
もちろん、学生向けに販売もされている。


「1年生の出し物の中で断トツの注目度を誇る一ノ瀬君にぜひインタビューをしたいんですが!」

「インタビューてそんな…」


いよいよ大袈裟になってきて顔が引き攣る。ドッキリなんじゃないか、とすら思ったところで、実行委員の女子がすっと現れる。


「宣伝してもいいなら引き受けてくれますよ」

「ほんとですか!?」

「えっ…」


実行委員はメガネをカチャリと押し上げて言い放つ。言ってねえよ、と思うが聞いてもらえないだろう。


「お願い、志摩君と明日の休み時間がっつり合わせるからさ」

「………分かった」


今日は休みがあまり被っておらず、どこかに2人で遊びに行けるようなものではない。なのでそれは有り難かった。
そして朝祇が引き受けた途端、報道部のアナウンサーらしい女子にずい、と寄られた。


「ありがとうございます!気にせず普段通りで大丈夫なので!じゃあいきますよ!」

「えっ、」

「さぁやって参りました1年C組!メガネ喫茶ということで、大注目のこの方!一ノ瀬君にお時間頂けました〜!」

「…どうも」


戸惑う間に始められ、立て続けに理不尽な展開となって解せない気持ちになる。それでも明日のためだと笑顔を向けた。対人用の作り笑いである。


「整理券が即座に売り切れるほどの人気ぶり!それもそのはず、こんなにも執事服が似合う高校生なんてそういません!」

「ありがとうございます、自分では分からないとこもあるんですけど、そう言ってもらえるのは素直に嬉しいです」

「落ち着いた感じも好印象です!」


その後も、いくつか簡単な質問をされた。やはり大人相手に商売するだけあって、その質は高い。言葉に詰まったときの咄嗟のフォローが上手かった。


「では最後に一言お願いします!」

「明日もお待ちしてます」

「はい、ありがとうございました〜!」


ちゃんと宣伝も混ぜておけばノルマ達成だろう。実行委員も満足そうだ。同じく満足そうに帰っていくクルーを見送ると、なんだかどっと疲れてしまったような気がした。


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