学園祭と″そのとき″−10


翌日、朝祇と廉造は昼のシフトを終えて、2時間ほどの休憩をもらえた。ただ、衣装はそのままで、宣伝もかねて巡ってこいとのことだった。


「まずどこ行こか〜」

「腹減ってる?」

「んー、俺はそうでもあらへんなぁ。朝祇は?」

「俺もそんなでもないかな」

「じゃあ先に坊のとこ行こか、今受付やっとるみたいやし」


勝呂は確か脱出ゲームだったはずだ。廊下を少し進めば特進に着く。この時間は飲食系に流れているのか、列はできていなかった。


「ぼ〜ん、遊びに来ましたよ〜」

「よっ」

「おう、来たんかお前ら」


受付の勝呂はとても歓迎しているとは思えない顔で迎えた。恐らく、誰に対してもこうだったのだと予想できる。


「ルールはどないなっとるんです?」

「謎解きやな。迷路っちゅーほどのもんやないさかい、出された課題こなして進めばええ」

「なるほどね、クリアむずかしい?」

「時間内にゴールできたんは6割ほどやな。わりとタイムアウトのやつも多いで」


学生の出し物としてはなかなかの難易度だ。偏差値の高いこの学園のさらに特進だけあって、それなりにやり応えがあるらしい。


「よっしゃ行くで朝祇!」

「んー」


張り切る廉造について引き戸を開ける。勝呂は軽く手を振って見送ってくれた。

中は薄暗く、RPGのダンジョンのようなレンガっぽい装飾がされていた。少し歩くと、すぐに最初の課題に差し掛かった。
開けた空間に机が置かれ、紙が1枚置いてある。やはりゲームのようなドット文字で、統一された世界観だった。


『▼さんかくで しかくい からだの いちぶ ってなーんだ?』

「三角で四角い…?そないなかくかくした体やないねんけど」

「うわ、俺自慢じゃないけどこういう謎謎無理なんだよね」

「え、詰んだやん」

「………」

「………」

「………」

「…えっ、マジで無理やんこれ!?」


まさかの結局解けないという結果に終わり、制限時間を超えたためゲームオーバーとなってしまった。
渋々廊下に出ると、結果を聞いたらしい勝呂は可哀想なものを見る目で出迎えた。


「初っぱなからかい…」

「坊!なんやのあれ、めっちゃ難しかってんけど!?」

「答えは『口』や。画数が三画で形が四角いやろ」

「…天誅!」

「おわっ、何すんねん一ノ瀬!?」


謎謎の嫌いなところは答え合わせがむかつくところだろう。その気持ちを、勝呂に腹パンすることで発散させたが、固い腹筋に阻まれてしまった。特に廉造も止めずに笑っていたのだが、護衛役としてはそれはどうなのか。



***



特進を出てから、2人は昼食を食べに燐のD組の出店へと向かった。飲食系が並ぶ区画にあり、おにぎりと豚汁という渋い組み合わせの店だった気がする。

人混みになっている出店の合間の通路を歩くと、道行く人が皆振り返る。衣装が目立つのだろう。女子の中には騒いで写真を撮る者までいた。芸能人か。

燐の店まで来ると少しだけ列に並び(列ができているのはそもそもここだけだが)、あくせく働く燐に声をかける。


「奥村!」

「奥村く〜ん!」

「おっ、志摩に一ノ瀬じゃん!」


男子ばかりが動き回るテント内で、燐はひたすら結んで豚汁の鍋を回してを繰り返していた。その手は休めずに、パッと顔を上げて破顔する。


「来てくれたんだな!」

「お腹すいた、おすすめは?」

「全部!」

「聞いた時間の無駄分だけまけてよ」

「失礼か!」


そうやって燐と親しげに話す朝祇が意外だったのか、D組の男子たちや通り過ぎる生徒たちが驚いたようにこちらを見ていた。結構、昇降口や廊下で話しているし昼も一緒なのだが。


「奥村君に任せるわ〜」

「俺も」

「うし、待ってろ!」


燐はそう言うとおにぎりと豚汁を用意し始めた。恐らく、全部がおすすめというのは嘘ではない。燐が作っているのだ、美味しいに決まっている。


「ほいよ」

「ありがと、いくら?」

「2人で860円!」

「ありがとぉな」


廉造はさっと払い、おにぎりと豚汁を受け取る。朝祇が払おうとする動作を始める前の素早い手際はさすがだった。
燐はそんな様子に「イチャイチャしやがって」と恨めしそうにしたが、去り際には笑顔で手を振ってくれた。

ちなみに、めちゃくちゃ美味しかった。


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