学園祭と″そのとき″−11


続いてやって来たのは、しえみと朴がいるお化け屋敷だ。朴は受付をしていて、しえみはお化けに扮しているらしい。
教室外側の装飾からしてすでに凝っていて、かなりの力作だ。


「朴ちゃ〜ん、来たで〜」

「よっ、すごいなこれ」

「わぁ、2人とも来てくれたんだ、ありがとう!皆頑張ってたんだ〜」


ふんわりとした笑顔は朴の魅力だろう。その背景は大変おどろおどろしいが。


「結構怖いって評判なんだけど、大丈夫?」

「まぁ俺らは本物見てるしな」

「そこら辺におるからな」

「ふふ、確かにそうだよね。間違って祓ったりしないでね?」


どうやら相当怖いようだ。しかし、塾生として作り物に怖がるようなメンタルではいられない。朴も分かっているのか、楽しげに冗談を返した。

そうして2人は受付を済ませ、いよいよ中へ入る。そわそわとする廉造は、入って扉が閉まるなり、暗がりでも分かる笑顔を向けてきた。


「怖なったらいつでも抱き着いてくれてええで!」

「ほんとベタなの好きだよな。まぁ、悪いけどその期待には応えらんないな」

「ちぇ〜」


廉造もさすがにそれは分かっているようだ。もっと恐ろしいものを見てきたのだ、そりゃ毎日がお化け屋敷状態である。


少し進むと、よくあるヒュ〜というBGMが響き始め、暗い迷路を何かが動く気配がする。お化け役だろう。相手の動きを察知できてしまうのも、祓魔師を目指す上で必要なスキルなので仕方ない。
来るな、と分かってしまえば驚きもしない。
「うわぁ!」と驚かせてきてくれた、被り物をした男子には悪いが、苦笑しか漏れなかった。なんだか罪悪感すら湧く。
廉造もそう思ったのか、「おおびっくらしたわ〜」と棒読みで言った。逆に失礼である。

それからもすべての驚かしに薄い反応を続けてしまい、もう終盤というところまで来た。しかし、ただの暗い迷路だな、なんて思っていると、突然背後から「ヴァ"ア"ア"!!!」という声とともに山姥が現れた。


「っ!?!?」


まったく気配を察知できず、朝祇は思わず素で驚いてしまった。声も出なかった。まさか一般生徒相手に気付かないとは思っていなかった油断があったのだ。
だがよく見てみると、見知った顔だと分かる。


「も、杜山さんか…」

「えへへ、びっくりした?」

「そりゃ気付かないわけだ…」

「もうゴールだから!来てくれてありがとう!」


同じ候補生なら気配を隠せて当然である。他の客なら全員驚かせられたのではないか。というかとんでもない声を出していなかっただろうか。そんな疑問に答えないまま、しえみは笑って待機場所へ戻っていった。

まんまと驚いてちょっと悔しい気もしたが、ふと、廉造が静かなことに気付いた。隣を見てみると、にっこりとしている。
疑問に思っていることが分かったのか、廉造は左手で下を指差した。それを目で追うと、なんと、朝祇が廉造の右手を掴んでいた。完全に無意識だ。


「な…っ、えっ!?」

「かいらし過ぎやない?」

「う、うるさいな!」


パッと手を離し、朝祇はさっさと出口へ向かう。フラグを華麗なまでに回収してしまった。


***


先程のことはなかったことにした朝祇は、素知らぬ顔で隣のB組にやって来た。廉造のニコニコ顔は無視である。
そんな2人に、子猫丸は不思議そうにしながらも迎えてくれた。


「お2人ともありがとぉ、ちょうど僕が説明担当やさかい、ぜひ楽しんでってな」

「おっ、ちょうど良かった」


ぴったり子猫丸の担当の回で来れたようだ。他に客はおらず、2人と子猫丸で中に入ることになる。B組はプラネタリウムだ。
出雲も同じクラスだが、勉強すると言ってまったく参加していないらしい。内装は凝っていない適当なものだと言っていた。

しかし入ってみると、暗室となった部屋は一面黒いシートで覆われ、見事な星空が全面に再現されていた。


「うわ、すげえ」

「ほぁ〜、よぉできとるなぁ」

「意外とすごいやろ」


プラネタリウムを投影する機械も恐らく高いのだろう。かなりの精度で再現された星空は、突貫工事と言っていたわりにとても素晴らしいものだった。
子猫丸は2人を定位置に座らせたところで、星空の解説を始める。
オリオン座や夏の大三角など聞き覚えのあるものを始め、様々な星や星座、その謂われなどを分かりやすく説明してくれた。東アジアは欧米の星座だけでなく、中国神話のものも題材となっているため、種類が豊富だ。

静かな空間で、美しい星空が広がる。何となく、隣の体温が恋しく感じられると、左手に温もりが加わった。ちらりとそちらを見ると、廉造が手を握っていた。
先程とは違い、その温もりに安堵する。いや、先程も思わず掴んでしまっていたのだから同じようなものだ。
握り返すと、さらに強めに握ってくれる。星空に目を戻せば、残りの時間が否応なしに感じられる。

いつか本物を2人で見に行きたい、そう人工の星に願ってしまうくらいには、切実な気持ちだった。


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