島根イルミナティ編/前編−4
その後、雪男と候補生で分かれての聞き込みを開始した。雪男は大社へ、候補生は聞き込みをしたが、燐は食べ物を食べてばかりだった。
結果を報告するために展望台に集合する頃には日も落ち、横町は変わらない人並みとBGMで騒々しかった。
「結局分かったのは、おきつね横町のメシがうめえってことだけじゃね!?」
モゴモゴと饅頭を食べる燐に、勝呂は「お前だけや!」と叱る。昼までの辛気臭い雰囲気は、もうなくなっていた。
「観光客は何度も来とるリピーターが多い印象でしたわ」
「それと、大社より食べ物に夢中になってたみたいだね」
続ける勝呂に、しえみも意見を述べる。雪男は頷いた。
「確かに、大社の人手は割りと普通でした…そこで、ユメタウン稲生という集合住宅のことを耳にしたんですが」
「それ僕らも聞きました。大社の隣のあれですよね」
子猫丸は大社の隣の山にある、巨大な15階建てほどのマンションを指差す。和風テイストの真新しい建物で、ところどころに狐が象られている。子猫丸と朝祇は2人で観光客に話を聞いた際に、このユメタウン稲生のことを聞いていた。
「観光客は皆、どうにかしてあそこに入居したがってましたね。抽選らしく、何度も申し込んでるとか」
朝祇が言うと、子猫丸はさらにパンフレットをとり出し、発行元を示す。そこには、『稲生光明財団』と記されていた。光明、すなわちイルミナティである。
そこへ、いつの間にか合流していたらしい声が響いた。
「分からないことは"その土地の者"に聞けばいい」
「宝君!?今までどこへ…」
「なかなかいい人形が見つからなくてな」
宝は何やら大きな狐の人形を持っていた。120万円したらしく、雪男に請求して固まらせていた。騎士團の経費から落ちるだろうが、逆によく売っていたものだ。
「宇迦之御魂神に畏み畏み申す。この地と神木出雲に縁ある者を御遣わしたまえ」
どうやら、この人形への憑依召喚を行うらしい。手騎士二種、物質への降魔術である。 朝祇ができるのは悪魔の力のみを銃に宿すことだけで、そのものを何かの依代に降ろすことはまだできない。宝が上級の実力を持つというのは本当のようだ。
『如何にも、我は宇迦之御魂神の神使!八番位のミケ狐神である!』
「貴様は神木出雲の使い魔だったな。この土地と神木出雲について全て話せ!」
『我があの未熟者の小娘の使い魔だと!?愚弄するにも程があるぞ!第一汝らになんの関わりがある!』
「出雲ちゃんは私たちの友達です」
真摯なしえみの目に、人形に降りたミケという白狐は沈黙する。宝は高圧的なままだが、立場を表明するように続けた。
「この地に俺たちの敵がいる。神木出雲はどう関わっているんだ」
『…よかろう』
このミケは出雲がいつも呼び出す2体の白狐の片方だ。それなりに思うところがあるらしい。ため息をついて、その重い口を開いた。
***
この稲生大社は、古代から五穀豊穣、商売繁盛を利益とする豊宇気毘売命を祀る場所だった。大社全体の宮司として祭祀を担うのは稲神家という一族で、宇迦之御魂神の神使である狐神と交わった人間を祖とする家柄だった。いわゆる悪魔との血縁者の一族だ。
あるとき、強力な悪魔であり、周囲の生気を吸い取り肉体を若く保つ女の化け物として知られる九尾が古代日本を襲った。その九尾を倒そうとした陰陽師によって、九尾は倒しきれなかったものの殺生石という大きな石として結晶化した。
九尾の妖力により、殺生石は近付く生者を殺し死者を甦らせる石となる。
その石を管理して、定期的に九尾の力を鎮めるべく、稲生大社の宮司一族たる稲神家からその陰陽師に巫女が嫁ぎ、その陰陽師と巫女から神木家が始まった。
そうして神木家は稲神家の分家として、大社に封じられた殺生石を管理する役目を負うこととなった。
その64代当主が、出雲の母、玉雲である。
玉雲は美貌を持ち、稲神家当主の宮司との間に出雲と、妹の月雲を産んだ。しかし宮司には正妻がおり、事実上の外腹の子として複雑な立場に置かれた。
玉雲は宮司を溺愛し、家事もろくにできない女性だったが、出雲と月雲も心から愛していた。そして、巫女として九尾を鎮めるための神楽を誰よりも美しく舞い、強力な妖力で持ってその役目を果たしていた。
複雑な境遇とだらしない母によって幼くしてしっかりものとなった出雲は、常に月雲を気にかけ、学校で霊能者アピールをしているとバカにされても、大社の人達から蔑まれようとも、玉雲と月雲のことを考えていたのである。