力の正体−7
その後、柔造と蝮は本来予定していた話し合いに出ていき、金造も出掛けた。残された父・八百造と廉造は居間に座り、朝祇のことについての本題に入ることにした。
「おんな、お父。一ノ瀬君のことやねんけど」
廉造のジャージを借りた朝祇は突然の父親の登場に所在なさげにしている。そこに自分の名前が上がり、弾かれたように顔を上げた。
「さっき見て分かったんちゃうかと思うんやけど…」
「おん、黄龍やろ」
朝祇は驚いたのか、目を限界まで開いていた。そうだろう、と廉造は思う。廉造は見えない振りをしていたし、勝呂はまだ魔障を受けておらず見えない。子猫丸には事前に見えない振りをするよう頼んでいた。まさか廉造たちが気付いていたとは思っていなかっただろう。
「な、んで…」
「堪忍なぁ、一ノ瀬君。初めて君にその模様が出たときから、気付いとったんよ。坊たちのことがあるさかい、もしもに備えて様子見て、前の集団昏倒であかん思て柔兄たちに相談してん」
「あ……そ、っか」
傷付いたようにまた俯く朝祇に、廉造は隠してたんはやっぱショックやんな、と罪悪感にかられる。
「一ノ瀬君、いうたか。明陀宗んことは廉造から聞いとると思う。明陀宗は昔から悪魔祓いに特化しとった宗派で、今は世界的悪魔祓いの組織、正十字騎士團に属しとる祓魔師集団や」
正十字騎士團は元はヴァチカンの西方正教会、カトリックが母体の組織だが、拡大するにつれて様々な宗派ごとに異なる様式を内包する国際組織となった。エクソシストは本来、洗礼の際に体内に宿る悪魔を祓う役職のことを言った。
悪魔がキリスト教会の定義を越えたものであると分かったのは、もしくはそれを認めたのは、さほど昔の話ではない。そもそも世界は物質界と虚無界が裏表のように存在しており、人智を超えた虚無界の住人を宗派ごとに悪魔、妖精、天使、神、妖怪、怨霊など違う呼び方をしていただけだ。教会が寛容な姿勢になってからようやくそれが認められた。正十字騎士團では虚無界の住人を便宜的に悪魔と故障している。
「虚無界はサタン、青閻魔をトップとし、その下に息子8人が八候王と呼ばれとる。その8人はそれぞれ象徴する属性が決まっとって、悪魔は総じてその属性に眷属いう形で存在しとるんや」
「じゃあ…黄龍も」
「せや、地の王の眷属や」
「祓わないといけないんですか」
頭がいいとは聞いていたが、思った以上に理解が早い、と八百造は舌を巻く。廉造もこれくらいなら、と思わずにはいられない。
「悪影響が出たときに被害が大きいんや。千本通仏光寺の集団昏倒事件も、黄龍の弊害やろ」
「でも、黄龍が俺に憑依したのは人間による土壌汚染が原因で弱っていたからです。問答無用で祓うってのも、酷すぎやしませんか。…あなたたちが封印している不浄王?も原因のひとつらしいんです」
不浄王。その単語が出た瞬間、空気が凍った。それは、明陀宗最大の秘密であり、限られた者しか知らない存在。
門外の祓魔師ですらほとんど知らないというのに、一般市民が知っていていい存在ではない。
「……黄龍から、聞いたんか」
「そうです。…やっぱ、知られたくないことでした、よね」
「明陀宗の最大の秘密と言ってもええもんや」
八百造はため息をついた。朝祇のせいではないと分かっているが、知られてしまったことは事実。
「…メフィストに頼んで、記憶を消すか」
「それって…」
八百造はほぼ確定したように言った。廉造は、それが意味することを正確に理解する。
「黄龍と出会ってからの記憶を消す、ってことですか」
「そうなる。ちょいと不都合があるきもしれんけど…勉強とかな」
「それはいいです、でも…」
朝祇は廉造を見た。そう、つまり、廉造と仲良くなってからの記憶がごっそりなくなるのだ。
また、家のせいだ。廉造はずきりと胸が痛むのを感じた。「一緒に逃げちゃおう」と言ってくれた朝祇を、また、家の運命によって諦めなければならないのだ。
廉造も朝祇も、何も言えなかった。