島根イルミナティ編/後編−4


会議が終わると、廉造は外道院を手伝うことになり、それについていった。
研究所の大規模な実験室とそれを臨む展望研究室(パノプティコン)に向かう道すがら、研究員が慌てて駆け寄ってくる。その報告を聞いて、外道院は青ざめた。


出雲の適合率が、0.08%にまで低下していたのだ。去年は80%を越えていたのにである。


「どうしましょう、実験を中止して、」

「なにいってんだバカ!やるんだよ!」


しかしあとには引けない、と外道院は強行することにしたらしい。周りに怒鳴り散らし、実験は継続される。


「く…でも失敗したらどうする…!?僕は破滅だ…!ギャーーー!!どうすれば!!」


展望研究室までやって来ると、外道院は焦りのあまり、モニターを見てニタリと頬笑む。そこには、ゆめタウンからこの実験室に落下してきた候補生たちが一人ずつバラバラに小実験室に分かたれ、その様子が映し出されていた。


「そうだ…奥村燐を殺せばいい!」

「は!?え、マジすか…?総帥はそのままにするようにて言うてはりましたよね?」

「なぁに、やつが急に暴れだしたことにすればいい」


それを見て、外道院は燐を殺して手柄とすることに決めたらしい。一応諌めたが馬耳東風だった。いや、"豚"の耳に念仏か。


「じゃあ親衛隊員招集します〜?」

「やめろ!あの女の力など借りたら台無しだ!この僕にだって戦力はあるんだよ!!」


そう言って、勢いよく実験室の照明をつける。
途端に、モニターの向こうのガラス窓の外が煌々と照らされる。そこには、塾生たちがいるであろうコンテナ状の小実験室が、この展望研究室の上にあるゆめタウンエントランスから管で繋がれて、研究室の周りに円を描いて等間隔に並んでいた。

この地下の広大な吹き抜けの空間の中央にある円柱の塔は、上部がすり鉢状のゆめタウンエントランス地下に接続し、そこからパイプが放射状に下へと続き、各小実験室へ繋がる。塔の小実験室を見渡せる位置に展望研究室があり、さらにこの下の最下層に神木家の実験室がある。

モニターには、ゆめタウンから落ちてきた塾生たちがバラバラになって実験室にいるのが映る。当然、朝祇もいた。そこに、すべての部屋で巨大なおぞましい姿の怪物が解き放たれる。ゆめタウンで放出されたものよりもさらに力のある被験者たちが合体した、キメラゾンビだ。
廉造は見つからないようこっそりと、眉を潜めることしかできなかった。


「キヒッ、僕の家畜(ペット)のエサになれよ残飯どもが!」


そう下卑た笑いをする外道院だったが、ものの10分もしないうちに、ほとんどの塾生が状況を打開していた。

子猫丸は実力的に危ぶまれたが、キメラゾンビをパイプの入り口の蓋に激突させることで破壊し、そこからパイプをよじ登った。ちょうどそこへクロが落ちてきて、巨大化してパイプを破壊し、子猫丸とともに外へ出る。


「あーあー、もうさっそく一人脱出してますやん。ホンマに大丈夫ですか〜?」

「うるさい!」


しかし、他のメンバーも順調だ。

雪男はキメラゾンビの周りの物を巻き込んで回復する特長に気付き、銃弾を床とゾンビとの接地面に撃ち込むことで床と癒着させた。それにより動けなくなったところで、雪男の勝ちとなる。

ついで、勝呂はバズーカを使った詠唱の補助により、一進一退の攻防を繰り広げた。やがて、「戻る」という言葉を繰り返すキメラゾンビに気付いたのか、勝呂は詠唱によって水の王の眷属の力を借りて大きな鏡を出現させ、その姿を自覚させた。キメラゾンビはそれによって戦意を喪失し、倒れた。
「もう戻れへんのは俺の方やな」という言葉には、何が籠められていたのだろう。

そして燐は部屋をぶち破り外に出て、子猫丸に合流した。直後に、しえみもキメラゾンビに大木を生やしてそのエネルギーを吸い取ると、その大木によって天井を突き破って外に出た。
宝は巨大なロボットを召喚し、なんなく倒していた。


これで、一人を除いて危機を脱したことになる。その一人は、紛れもない、朝祇だ。
外道院もそれに気付き、相対したまま動かない朝祇とキメラゾンビに首をかしげる。朝祇はともかく、キメラゾンビが動かないのがおかしいのだ。


「ん…?ひょっとして…」


外道院はそう呟くと、カチャカチャとキーボードを弄り、何やらデータを呼び出す。それは、キメラゾンビの元となった被験者と、朝祇のデータ。


「っきゃはははは!!!こりゃあたまげた!こんなこともあるもんだな!!」

「…どうしたんです?」

「このキメラゾンビ、この一ノ瀬朝祇とやらの父親なんだよ!!」


映し出された画面には、2つのウィンドウが並ぶ。片方は朝祇のデータで、旧姓は女郎花(おみなえし)とある。離婚したことも書かれていた。
そしてもう片方には、女郎花高志という男のもので、朝祇という腹違いの息子がいることが記されている。


「ん…?つかこのガキ、なんか高エネルギー反応がある…顔に浮かんだ模様も気になってたが、あれか…?」


さらにそこまで気づいてしまったらしい。思わず舌打ちをしそうになった。これは良くない。


「実験室7の情報解析っと……っ!?こ、こ、黄龍!?そんな化けもん宿して堕ちてないだと!?」


外道院はさらにデータの収集をしていく。ここまで来ればすべてバレてしまうだろう。外では燐が実験室の天井をすべて爆破し、全員が合流できるようにしていた。


「ははーん、なるほど?江戸まで京都で有力だったあの降魔術の名門、一ノ瀬家と、関東の陰陽師の家系だった女郎花家の嫡子どうしの子なわけか…キヒヒ、こいつはエリクサーで補強すれば、サタン様の器にもなりうる…決めた、おいお前、こいつを捕まえろ!見た目もいいし、ルシフェル様に献上するにふさわしい…ヒヒッ、」

「…分かりました〜」

「あと出雲を迎えに行け。桟橋で襲われるだろうからな」


不思議と、面倒だとは思わなかった。
絶対に朝祇は守る、そう心に決めていたからだ。


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