島根イルミナティ編/後編−5




「サタンボム!!」


燐はそう言って力を籠めれば、すべてのコンテナの天井を破壊することができた。合流できた子猫丸としえみの他に、雪男たちとも合流するためだ。
その燐の爆破によって、雪男、勝呂、宝も出てきて合流した。


「遅い!!」

「えー!?出会い頭になんだよー!」


雪男は合流するなりそう責めてきたが、他は安心したように面々を見渡す。すると、一人足りないことに気付いた。


「あれ、一ノ瀬はどないした?」


勝呂が言ったのを皮切りに空間を見てみるが、出てくる様子はない。急速に心配になったところで、突然、マイクが入る甲高い音が響く。


『キヒヒ、静粛に!ようこそ目障りなゴキブリども、僕はこのイルミナティ極東研究所の所長、外道院ミハエルだ』


中央の塔を見上げると、ガラス窓があり、そこから肥えた男が見下ろしているのが分かった。外道院、という名前に燐は困惑する。


『ここは不死の妙薬エリクサー実験の聖域だ!聖域を侵したお前たちは万死に値する!』


さらに不死、エリクサーなどといった単語が登場すると、燐だけでなく勝呂たちも動揺した。とてもそんなものがあるとは思えなかったからだ。


「つまり、神木さんはエリクサーの実験体として拐われた…そして、このゾンビたちも実験の犠牲者…!」

『そうとも!ゾンビどもは人体実験の失敗作!稲生ゆめタウンに集めた観光客だよ』


衝撃の事実に、全員戦慄した。あの横町で見かけたような人々が、変わり果てた姿となって徘徊しているのだ。人としての尊厳を失って。


『おきつね横町で販売していた麻薬入りの飲食物によって幸福感しか感じなくなった観光客は、ここに依存して自らゆめタウンへやって来る。薬のお陰で実験しても恐怖や苦痛を感じることも少ない、これはルシフェル様のお優しい計らいによるものだ。人道的だろう?ブキャハハハ!!!』

「お前…悪魔なのか……?」


思わず燐はそう聞いてしまった。そうではないと分かっている。だがそう思ってしまうほど、信じられなかったのだ。こんな人間がいるのだと言うことが。


『いーや、人間だよ。残念ながらね!』


そう言って外道院は手元のスイッチを押した。途端に、生き残っていたキメラゾンビたちが苦痛の呻き声を上げながら巨大化し始めた。
体内のエリクサーカプセルが爆発し、過剰摂取によって細胞が分裂を繰返し、より高いエネルギーのものを求めて周囲のものを見境なしに吸収していくのだという。それは、あまりにも苦しそうだった。


『さぁて、これからはさらに楽しいショータイムだ。一人仲間が足りないのは分かっているだろ?そいつはなんと、偶然にも!離婚した父親がキメラゾンビ化してご対面中だ〜!親子の感動の再会ってなぁ!!』

「は……?」


何のことか分からず固まる燐や雪男に、子猫丸が愕然としながら説明した。


「…一ノ瀬君は…親御さんが離婚して、中3からお母さんの実家がある京都に越してきたんです…お父さんの方とは連絡しとらんかったみたいやけど、まさか、こないなとこで、しかもキメラゾンビになっとるんか…?」

『そういうことだ!ゾンビのくせに大きくなったな、朝祇、なんて言いやがって!!傑作だろ!!??その知性の残ったお父さんももう暴走が始まる…キヒッ、どうなるんだろうなぁ!!』


そんなことが、許されてたまるのか。残酷すぎる事態に、もはやそれが事実だと認識することすら、候補生たちには難しかった。だから、怒りもまだ沸かない。


「な、なんとも思わねーのかよ!?」

『思わないね。僕は人間が大っ嫌いだ!!科学実験で動物が使われているのを知っているだろう?自分たちが生きるために他の動物を殺す。本来、自分のことは自分で始末すべきじゃないか!?人間が人間を使って実験することは正義だ!!』


鉄板などを吸収しながら大きくなっていくキメラゾンビは、悲痛な声を上げながら、もう人の原型を留めない肉塊となっていた。

この世には、悪魔よりもよっぽど残酷な人間がいて、それに比べたら燐は優しいのだから、たとえサタンの息子であっても怖くない。
かつてサタンの子であることが朝祇に露見したとき、朝祇はそう言って優しく笑ってくれた。笑って、受け入れてくれた。それに燐がどれだけ救われたか。
その朝祇に非道なことをしながら、この男は何でもないようにそれを余興だと言うのだ。

そして外道院は、満面の嘲笑を浮かべ見下した。


『間違ってると思うなら僕を論破してみろよ?ん?できないか?できないなら黙ってろ!きゃはははは!!薄汚ねえ薄っぺらの偽善者どもが、聖人面して死ねぇ!!』

「……んの、外道がぁぁああああ!!!」


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