島根イルミナティ編/後編−8


辺りには沈黙が落ちる。外からは他のインフレゾンビが発する呻き声や破壊音が響いているが、ここには鎮魂の静けさがあった。


「…ありがとう、勝呂。本当に…」


まだ悲しみは実感できていないけれど、勝呂がああやって経を詠んでくれたことは、朝祇にとって救いになった。父が安らかに最期を迎えられたのは、黄龍たちと、勝呂のお蔭だ。


「…おう」


勝呂は短くそれだけ言うと、ぽん、と朝祇の頭を撫でて天井の穴から外に出た。ほとんどを語らずとも、勝呂の様々な配慮が感じられる。


『主様にはああいう人がいいよ』

『同感だ』

「…何言ってんの。でも、黄龍も麒麟も、ありがとう」

『主様こそ、礼を言うようなことじゃないよ』


朝祇の周りは、優しいものばかりだ。改めて、守りたいと思う。土の山となった父を一瞥し、そして視線を上に上げる。みんなのためにも、悲しむのは後にしよう。今は出雲を助けるのが先決だ。

麒麟に頼んで乗せてもらうと、穴から外へと飛び出る。雪男たちもクロに乗っていた。


「一ノ瀬君!これから、兄と志摩君が戦っている最下層へ向かいます!恐らく神木さんもそこに…」

「分かりました!麒麟のが速いんで先に行きます!」

「お願いします!」


クロには雪男の他に勝呂、子猫丸、しえみ、宝も乗っている。スピードとしては麒麟の方が速いし、乗っているのも朝祇一人だ。
朝祇は麒麟とともに、猛スピードで吹き抜けの空間を下層部へと突き進んでいった。

風を切る音が耳元で響く。必死で掴まっていると、あっという間に地面が見えた。
そしてそこには、インフレゾンビに飲み込まれる燐と、それを傍観する廉造の姿があった。燐に追撃されないよう、朝祇は考える間もなく麒麟に減速させ、実弾を発砲した。


「おわぁっ!?って朝祇!?」

「神木さんはどこだ!」

「…教えへん言うたら?」

「……お前とは、一度やり合ってみたかったんだ」


ニヤリとする廉造の前に降り立つ。麒麟の上から見下ろすと、僅かに廉造が焦っているのが見えた。


「言っとくけど、手加減しないから」

「えっ、本気…?」


朝祇は内心で黄龍に頼みながら、銃に左手をあてて唱える。


「冀うは朱夏が烈火」

「ヒエッ…」


そして、連射モードで銃口を向けた。廉造がいない虚しさや悲しさは、もはや何かよく分からない怒りになっていた。こちとら色々と複雑な心境なのだ、存分に晴らさせてもらおう。

朝祇は勢いよく銃から炎の弾を 連続で撃ち出した。1分間で1200発は撃てる。
廉造がいた連絡橋は一瞬で炎に包まれ、廉造は悲鳴を上げて黒い炎の塊をこちらに投げてきた。麒麟によって難なく避けると、壁や地中から土の塊が突き出して廉造をプレスしようと暴れる。黄龍が操る土だ。


「ちょ、タンマタンマ!!教える!教えるさかいやめたって!この下におるて!!」


さすがに神格級の悪魔を3体分使役して攻撃されては追い付かなかったらしい。あとはもともと大してこれを教えることの問題もなかったのだろう。


「あっそ。じゃあ」


朝祇は軽く言って最下層へと向かう。でなければ、何か言ってしまいそうだった。廉造はインカムをしているし、どこにカメラやマイクがあるか分からない。迂闊なことを言ってイルミナティに2人が怪しまれないようにしなければならなかった。


すると突然、インフレゾンビが青い炎で爆発した。そしてその中から燐が飛び出し、地面を爆破してその下の実験室に突っ込んでいく。
ちょうどいいと追いかけようとして、ちらりと廉造がいた方を見てみると、もうその姿はなくなっていた。


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