島根イルミナティ編/後編−10
「…よ、かった…出雲……ごめ、んね…」
「やめてよ!…っ、なんで、あんたなんか、いっつも私に助けてもらってたくせに…!」
出雲は何とか起き上がると、玉雲の側に座り込み、声を震わせる。しえみは何とかしようと玉雲の体を見渡すが、その肩を朝祇は叩いた。涙目で見上げるしえみに、首を無言で振る。この状態で2度の憑依をしたのだ、きっと耐えられない。
「どうして今更っ、こんなことするのよ…っ!!」
叫ぶ出雲に、玉雲はゆっくりと腕を上げて、その頭を自らに抱き寄せた。そして玉雲は、本当に嬉しそうに、幸せそうに、微笑んだ。
「玉ちゃんの、宝物」
出雲は目を見開いてから、その顔を歪ませた。大粒の涙が溢れだし、子供のように泣き出す。
「う…うぁあぁん…!!あたし、間違ってたの…!!」
すがりつく出雲の頭を、ぽんぽん、と玉雲は撫でる。その目は、出雲と、その後ろに並ぶ雪男と候補生たちを捉えていた。
「大丈…夫…」
出雲は体を起こし、玉雲と涙を湛えながら目を合わせる。
「…みん、な…側に、いるわ…」
徐々に玉雲の手は力をなくしていき、出雲から離れていく。それに出雲はしゃくりあげる。
「月雲、も…ウケちゃ…ミケも…だ、から……だ、いじょう、………」
やがて手は床に力なく落ち、玉雲は声を発さなくなった。雪男がしゃがんで確認し、玉雲の命が絶えたことを告げる。
九尾の尻尾も蒸発する。玉雲の魂とともに、この世から姿を消したのである。
誰も何も言えない。そんな中で、燐はぽつりと言った。
「…そっか。母ちゃんは、出雲を守って死んだんだな」
静かなその声は、同情などではなく、純粋に玉雲への敬意に満ちていた。
そんな燐の言葉に対して、醜い声が実験室に響き渡る。
「それが何だって言うんだよ、人間なんて1日20万人単位でゴミクズみたいに生まれては消えてんだ!今更ババア一匹死んだくらいでピーピー泣いてんじゃねぇゴミどもが!!」
「外道院…!」
小太りの男に、出雲はそう呟いた。あいつが、この惨事を引き起こした張本人ということだ。
『殺すか?朝祇』
『殺そうか?主様』
頭の中で黄龍と、側に来た麒麟がそれぞれ言った。そう過激だとは思えないくらいには、あの男が憎くて仕方なかった。
しかし様子がおかしい。外道院はブツブツと言いながら、ヘルメットのような装置を自ら頭につけた。
どうやら、あれが悪魔を強制憑依させることができる機械のようだ。それを、自ら使う気らしい。
強烈な光を放ちながら、機械は唸るように稼働する。
「ギ、ギギ、ブゴォオオオ!!」
外道院は呻きながら、どんどん膨れ上がり巨大化していく。自分に似合う美しい悪魔が憑依するだろう、などと言っていたわりに、それはおぞましい姿になりつつある。
「ブゴォっ!感じる、感じるっ!細胞が一つ一つ生まれ変わっていくのを感じるっ!!」
「くそ、脱出口があいつの後ろにある…!」
「戦うしかないわけやな」
巨大化する外道院を前に、逃げようにも逃げられない。唯一の非常口は外道院の後ろにあった。
そしてついに、外道院は憑依を完成させた。原型を留めるのは頭だけで、その下はイカのような軟体生物の触手のようなものが大量に蠢いていた。
「人間はみんな死ねぇええ!!!」
外道院はそう叫んで触手によってゾンビを掴むと、それを捕食し始めた。
変異した下半身や異様な顎、そして食人。これらを鑑みるに、これは人間に対して執着する人間に憑依する、食屍鬼(ネクロファージャー)だと分かった。
あまりに大きく、エリクサーによって強化されていることもあり、倒すのは容易ではないだろう。何とか朝祇は発砲して触手が近付くのを防ぐが、攻撃した側から回復していく。
「奥村君!また京都のときみたいにできひんかな!?」
「火生三昧か!?あんときは烏枢沙魔が手伝ってくれたからできたんだ!」
「せやったん!?」
「なんやお前の持ち技サタンスラッシュだけやないやろな!?」
燃やしつつ浄化できるのは燐の炎だけだ。不浄王を倒した技を子猫丸は提案するも、今はできない。
そこで燐は勝呂にも言われ、「サタンボム!」と爆破技を披露した。
外道院は爆発しそれなりにダメージは与えられたようだが、勝呂は微妙な顔をした。無論、ネーミングの問題である。