すぐそばで−6


廉造が語るところによると、廉造はイルミナティから二重スパイとして公認されたようだった。
稲生の極東研究所が破棄されると同時に、廉造たちは北米研究所が建造した巨大空中母艦、"境界の王(ドミナスリミニス)"で稲生を後にした。境界の王はステルス式で、レーダーや悪魔からも識別できないのだそうだ。
そこから廉造は東京へと返され、騎士團のスパイとして復帰するよう言われたのだという。つまり、騎士團とイルミナティの橋渡しのようなポジションだ。


「つまり君は、騎士團とイルミナティ双方の公認スパイってことになるのか」

「でもイルミナティにも信用されてるかどうか…」

「大丈夫だっていけるいける〜。まだ殺されてないし、利用価値あると思われてるって〜」


ライトニングは軽いノリでまるで励ますように言う。だが、その食えない雰囲気は四大騎士に上り詰めるだけのものに裏打ちされているのだ。


「そう、彼をどう使うかは駆け引きです。うまく使えばイルミナティを出し抜くことができるかもしれませんよ」

「うん、でもやっぱり志摩君が信用できることが大前提だよね」

「…ちっ、おっしゃる通りです」


ライトニングは目先の利益に惑わされず、本質を見失うことはなかった。珍しくメフィストには余裕がない。


「…確かに、彼が裏切っていたとしたら、彼からもたらされる情報でこちらが撹乱される可能性がある」


雪男も冷静に判断して頷いた。これはデリケートな話になってきた。


「そこで聞きたいんだ。君たちから見て彼は信用できる男かな?」


しん、と痛いほどの沈黙が降りる。勝呂たちが二つ返事で頷けるわけがない。朝祇にはそれができるか、それはまだ早い。


「あれ?君たちって彼と親しいんだよね?」


冷や汗を垂らす廉造。そして、燐が口を開いた。


「信用なんてできるわけねーだろ」


それにはメフィストがガタッと音を立てて驚いた。笑みが引き攣っている。


「おやおや!?らしくないな。いつものあなたなら『志摩は俺たちの仲間だ!』とか叫ぶところでは!?」

「違う!お前だよ!!」

「私ですか!?」

「そもそもお前が信用ねーから志摩が疑われてるんだろーが!!」

「おや、意外と正論」


確かに燐たちからすれば、廉造は騎士團を裏切ってイルミナティについていたように見え、メフィストはそれを訂正しなかった。確信犯だったわけである。
だが隠さなければ、廉造と研究所で戦闘に陥った際にイルミナティに怪しまれかねなかった。現に朝祇とてそれを恐れて、騙されたフリを貫いていた。つまりは"必要だったから"。
そこで、はたと朝祇は気付く。
"いつから、何が必要だったのか"。果たして、廉造とイルミナティを秘密にすることだけが必要だったのか。それ以外の今まで起きてきたことは、偶然だったのか。偶然の出来事を、候補生だけで対処させたのか。

ちょうどそこで、出雲も口を開いた。


「…こいつの言うことも一理あるわ。フェレス卿があたしの妹を匿ってくださってたことは感謝してます。でもどうして教えてくれなかったんですか!?学園に入学した時点で教えてもらえてたらあたしは…!」


そう、それならば誘拐されることも、イルミナティの要求に応じて苦痛を与えられる必要もなかった。つまりは、それが"必要だった"。出雲が誘拐され、候補生が助けに行くことが前提になっていた。
候補生が行かなければならなかったことからしておかしいのだ。稲生の事件の死者は1万人近く。汚染されたのは100万人単位だ。間違いなく、国家レベルの人災である。


「すっかり矛先が私に…」

「それだけじゃない!」


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