すぐそばで−7
出雲の疑問は、朝祇の考えと偶然にもリンクしながら進んでいく。
「こいつは藤堂に勧誘されたって言ってた!だったら不浄王の左目が奪われる前に藤堂が裏切り者って知ってたはず!」
廉造を勧誘したのは別人ではあるが、藤堂とやり取りをしていたのは知っている。当然、メフィストは不浄王のことを予測できていた。
不浄王の事件だって、最悪の場合政令指定都市がいくつか死の街と化していたはずだ。いや、人から人へ感染するなら、魔障である以上治療などできるわけもなく、世界中で猛威を振るっただろう。
しかし、あの事件を解決したのはやはり候補生たちだった。そんなことが偶然に起こりうるのか。
「そうですね、私は知っていました。死んだ者や京都出張所には少々悪いことをしてしまいました」
「なっ、じゃああの戦いはなんやったんや!!」
勝呂の怒りももっともだ。そしてやはり理由は恐らく、"必要だったから"。不必要な大災害を引き起こすことも、それを候補生たちに任せることも、メフィストがするとは思えない。
「…そもそもフェレス卿はすべてにおいて怪しい」
そして、雪男も思うところがあったのか喋り始める。それは燐のことだろう。思えば、燐を巡る遊園地や林間合宿の事件だって、メフィストの企みだった。それはリアルタイムで朝祇も気付いていたし、メフィストも認めていたのだ。
ここで、朝祇の中で4月から今に至るまでのすべてが繋がった。
「アマイモンやネイガウス先生の襲撃もフェレス卿が仕組んだ可能性が高い。今だから打ち明けますが、初授業のときに現れたゴブリンはフェレス卿の命令で僕が仕込んだものです。兄の能力を試すために」
ネイガウス先生の襲撃、というのが指すものは分からないが、どこかで奥村兄弟を襲ったのだろう。雪男は、ついに最後にして最大の謎をつく。
「そして、何より…なぜサタンの落胤を生かし、育てているのか」
単純な話だ。むしろ、なぜ今まで気付かなかったのだろう。何もかも、
「…必要だったから」
朝祇の声は静かに落ちた。それに全員の視線が驚いたように向けられた。メフィストはニヤリ、と笑みを深めた。
「ど、どういうことだよ一ノ瀬…?」
落ち着き払う朝祇を不審に思ったのだろう、燐は動揺している。
「…俺が"初めて"メフィストさんが何か企んでいることに気付いたのは、遊園地での任務のときだった。アマイモンが来たのを黄龍が教えてくれて、なぜアマイモンじゃないといけないのか考えた。そのときにはもう黄龍を通して奥村の正体知ってたから、奥村の力試しをしたいんだろうって結論付けた」
黄龍がヒントを出してくれた。なぜメフィストはわざわざアマイモンを呼んだのか。それはアマイモンでなければならなかったからで、それは燐がサタンの息子として張り合えるのが八侯王クラスだけだからだ。そこから、燐の力試しをしようとしているのだと分かった。
「確信が深まったのは林間合宿。同じように黄龍がメフィストさんの気配を察知して、麒麟使って探しだしてみれば、またアマイモンけしかけるつもりだって認めてさ。ヴァチカンに見付かってでも、奥村に全力を出させたかったんだって分かった」
メフィストの気配があるということで問い質すために空へ飛べば、メフィストがいた。そこで、やはりアマイモンをけしかけるのだと告げた。
「結果、奥村はヴァチカンに処刑を保留にされ、霧隠先生の表立ったフォローができるようになった。これらのことは、間違いなく奥村の正しい育成に必要だった。不浄王の事件からは、奥村と俺たち候補生全員の強化を図ったんだと思う。じゃなきゃ、あんな災害レベルの事件を候補生だけに解決させるわけがない」
不浄王の事件は候補生によって解決された。特に、勝呂と奥村の実力を高めたかったのだろう。そして、実際に候補生たちの能力は高まった。
「奥村は燃やしわけと山肌を焼き払う火力のコントロールができるようになったし、勝呂は迦楼羅を継いで、杜山さんも真の意味で緑男を使役できるようになった。俺はその前にライトニングさんのお世話になったからそれで十分だったんだろうけど」
「あなたはしかし、"五神の守り地"を発動させた。観察していて思わず声を上げて感嘆しました!あなたはいつも予想を越えてくる」
「そりゃどうも。七不思議では子猫丸の実力を引き出して、そして稲生では、不浄王同様の災害レベルの事案を候補生だけで対処させることで、神木さんの実力が本物になり、候補生はかつてない協力プレイを成功させた」
白狐を使役することにおいて力をつけた出雲や、大変な状況下で個々の力と協力体制を高めた候補生たち。それは、出雲が誘拐されなければありえなかった。