すぐそばで−8




「メフィストさんは、何かしらの大局的なゲームをしていて、俺たちはその駒だ。駒を強化するため、メフィストさんはアマイモンの襲撃、不浄王、七不思議、そしてイルミナティの事件を誘発ないし利用した。そして実際に俺たちは強化された。…こんなところですかね」

「さすが一ノ瀬君!ご明察です!確かに仰る通り、私はあなたたちに強制的に試練を与えている。あなたたちを育て動かす手順は、一手たりとも間違えることはできない」


いわば、朝祇たちはチェスのポーンだった。それを、それぞれに適した役にしなければならなかった。ルーク、ビショップ、ナイト、クイーン、キング。ポーンは敵陣に達すればいずれかの役になることができる。


「私にとってあなたたちは誰一人として欠けてはならない大事な手駒。そして私はプレイヤーです」

「はぁ…?つまりなんだ…俺たちはお前のオモチャか?」


燐はようやくメフィストの目論みに気付いたのか、ゆらゆらと炎を散らして怒りを露にし始める。


「…やめとけ、奥村」

「一ノ瀬はいいのかよ!?」

「…自分に期待された役割があって、指定された状況下にいる。それを知ってるだけで、自分が期待された行動とそれに反する行動が分かるし、それぞれを天秤にかけてどちらが得か分かる。俺は少なくとも、今までの状況ではメフィストさんの期待通りに動くのが俺にとってもベストだったと思ってるよ」

「っ、それでもなぁ!」


燐は納得いかないのか、執務机に詰め寄った。


「何にせよ敵ではない、それだけで十分ではないですか?」

「十分なわけあるかぁ!!」


どん、と机に手をついて、全身から青い炎を迸らせる。机のものがいくつか焼けていた。
朝祇は損得で推し量ることもできるが、燐は情を大事にする。どちらも大事な考え方だ。


「人を何だと思ってんだ!!クソ野郎が、お前がほんとの裏切り者だ!!」

「私に牙を剥くとは愚か極まりない、下がりたまえ」

「うるせぇ…!なんでてめぇの言いなりになんなきゃなんねぇんだよ!」

「…決まっているでしょう。ルシフェルに勝つためですよ」


その瞬間、メフィストの眼光だけで燐は吹き飛んだ。反対側の壁に激突し、激しく咳き込む。メフィストからは竦み上がるような恐ろしい威圧感が溢れていた。
時の王サマエル。ルシフェルに次ぐ権力者である。


「虫螻同然のあなたたちは、偉大な者の脅威に翻弄されるくらいでちょうどいい」

「ッのやろぉ…!」

「はいそこまで〜。論点がずれてる」


そこで、ようやくライトニングが止めに入った。楽しげに見ていたが、話が纏まらずにだらだらと続くことに終止符を打った。


「でもフェレス卿がこっちでもまったく信用ないってことがよく分かったよ!あははは」


笑うと、ライトニングは廉造を見遣る。


「…じゃあ志摩君も同じく信用ゼロってことでいいのかな」


すると、ガタンと勝呂が立ち上がった。思いの外、今の一連の流れを聞いても冷静だった。


「俺は信頼してます」


静かで、しかし力強い声だった。それに廉造は目を見開く。
それに他も続いていく。


「ぼ、僕も自分の見てきた志摩さんを信じます!」

「み、三輪君の人を見る目は間違いないです!」

「…カスだけど悪いやつじゃないはずです。カスだけど」

「志摩は俺たちの仲間だ。拷問なんてさせねぇよ」


その候補生たちの言葉に、ライトニングは満足そうに頷いた。最後にライトニングは朝祇の方を見た。


「一ノ瀬君は?」

「…信じてますよ。それに、こちらの情報を相手に流すことは相手の行動を読みやすくしますし、嘘かもしれないと思うならその対策も立案しておけばいい」

「はは、なるほどね、確かにそうだ」


ライトニングはメフィスト、廉造、そして塾生たちを見渡してから、うん、と頷いた。


「そっか。じゃあ僕はおいとましようかな」

「まさか不問にされるんですか?」

「うん、もとからそのつもりだったし」

「もとから!?」

「…ひとまず、ね」


やはり珍しく、メフィストはやりづらそうにしていた。先程の威圧感はもうない。


「ぼかぁエンジェルや他の上層部とは、ちょっと違うんだ。…この件はこれ以上広めないように!後で誓約書送るから!」


ライトニングは扉を開きながら、振り返り様にそう言った。そして最後に付け加える。


「あ、そうだ、一ノ瀬君はついきてくれる?」

「えっ、」

「あー一ノ瀬君、ライトニングとの話が終わったらこの部屋に戻ってきてください」

「えっ…?あ、はい」


ライトニングに、そしてメフィストにまで残るよう言われ戸惑いつつも、ライトニングの後を追う。少し目立ちすぎたか、と警戒した。


170/187
prev next
back
表紙に戻る