すぐそばで−9


ライトニングに連れられ、朝祇は近くの小部屋に入った。扉を支えてくれたことに会釈して入ると、ライトニングは扉を閉めるなり、朝祇を扉に押し付けた。
軽い衝撃に驚いてライトニングの顔を見上げると、至近距離にあった。いわゆる壁ドンのようなものだ。

何のつもりかと体を固くすると、さらにライトニングは朝祇の顎を掬った。いよいよこれは、と焦ると、ライトニングはくすりと笑う。


「そんな可愛い反応したらお兄さん頑張っちゃうよ〜?」

「うるさいですおじさん」

「わぉ傷付く!」

「うさんくさ…」


まったく思っていないだろう感想に思わず言えば、ライトニングはさらにくつくつと笑った。


「言うねぇ〜。まっ、怖がらなくていいよ。随分とほら、クールな目になってるからさ」


そう言ってライトニングが左目の下をするりと撫でる。そこでようやく、すっかり慣れてしまった左目の金色の虹彩をライトニングが初めて見たのだと気付く。


「十中八九、黄龍が君に完全憑依してることと関係あるんでしょ?」

「…ほんと、あんたもうちょいまともだったら、もっと憧れたのに」

「はは、まともな人間は円卓には行けないよ」


円卓とは三賢者を交えた四大騎士や聖騎士などの会議のことだ。確かに、化けもののような人達しかいないのだろう。


「…これは、不浄王から京都市街地を守るために五神の守り地を発動させるときになったものです。黄龍の力を借りるにあたって、直接憑依させる必要があったので」

「なるほど、だから黄龍の力が弱まった上で直接憑依してるわけか。それにしたってよく悪魔墜ちしないでいられるもんだ」

「…血筋です」


一ノ瀬家、そして陰陽師だった女郎花家のサラブレッドだからこそである。その血筋ゆえ、父と腹違いの妹はゾンビとなって長い苦しみで生きながら死んでいたのだ。

どうやらその話は報告として受けていたらしい。ライトニングは顎にやっていた手を朝祇の頭に載せた。


「…大変だったね」

「…ありがとう、ございます」


ふ、と笑うと、ライトニングは体を離した。本題が来る。


「よし、じゃあ本題だ。…一ノ瀬君、君の実力や、黄龍の人の心を読む力はとても重要だと思う。だからさ、ヴァチカンのスパイ、やってみない?」

「…え?」

「フェレス卿を心から信じることは難しい。ちょっとした監視だよ」


それは、予想だにしない提案だった。まさか、そこまで評価されているとは思わなかった。
だが、こんな話、受けるわけにはいかない。


「…俺はまだ、実力なんてないです。五神の守り地だって、ほとんど黄龍のおかげでできたんです」

「読心術は?」

「…ちょっと、聞いてみます」

『……聞かないのか?』

(聞かないよ、この話受けないし)


内心で黄龍にそう返すと、聞いてもいない返答を伝える。


「断られました。…黄龍は俺に憑依してるだけで、使役できてるわけじゃないですし。強制力がないんです」


実はそれは本当だ。麒麟たちのように従えているわけではない。黄龍の好意で朝祇のお願いを聞いてくれているだけなのだ。嘘を見破るのが得意そうなライトニングだ、嘘をつかずにいられるならそれに越したことはない。


「うーん…それじゃあ仕方ないね。今の話、くれぐれも内密に」

「分かってます…また機会があれば。俺も祓魔師で食べてくつもりなんで、お金になるならまた考えますよ」

「君はほんとに面白いよね〜。さっきもあんな鋭く考察してたのに、ちょっと迫ったら不安そうにするんだもん、可愛いったりゃありゃしない」

「あー…風呂入って出直してください」

「ははは!その通りだ、これじゃあ女の子も引っ掛けらんないね」


ライトニングはそう笑うと、扉を開く。朝祇はメフィストの部屋に戻ることになっている。


「ぼかぁ鍵で帰るから、ここで。またね〜」

「失礼します」


手を振るライトニングに会釈して、朝祇は廊下を執務室に向かう。次はいったい何を言われるのか。


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