変わらないもの−5
翌日、悪魔薬学の最後の時間に雪男から塾生たちに驚きの話がもたらされた。
「皆さん、今日フェレス卿から通達がありました。祓魔師認定試験の日程が早まります」
なんと、祓魔師になるための試験が早まるのだという。まだ範囲の勉強が終わっていないのだが大丈夫なのだろうか。
「日程変更にともなって、取得希望称号を再度記入、提出してもらいます。これが最終決定ですので、よく考えてください」
そして朝祇は思い出す。
まだ、真由美に祓魔師を目指していることを言っていない。
***
さらにその翌日、朝祇は取得希望称号用紙を眺めて祓魔塾の教室の机に伏していた。学校が終わってから塾が始まるまでの空き時間だが、タメ息を何度も吐いている気がする。
「どーしたん?朝祇」
さすがに気になったのか、隣に座る廉造が朝祇の頭を撫でながら聞いてくる。最近、廉造はよくこうやって甘やかしてきては朝祇もそれを享受し、勝呂に呆れられている。その勝呂の姿は見えない。
「実はまだ母さんに言ってなくてさ…祓魔師になること」
「えっ、ホンマ?そらあかんなぁ…」
そもそも高校生、というか18歳未満の就労は厳しく法律によって制限されている。中学生は労基署と学校の許可なしにバイトできない上、職種が著しく限定される。高校生は、学生であれば正社員と契約社員にはなれず、全日制の場合は派遣社員にもなれない。定時制などであれば派遣社員になれるが、やはり就労時間や職種は限定される。そのため高校生の基本的な雇用形態はアルバイトである。もちろん学生でない年少者は正社員になれるが、そもそも高卒でなければ契約社員以上の形態で求人することなどない。
しかし正十字騎士團だけはそういった制約はほとんど受けない。強いて言うなら労働時間くらいだろうが、そこもあまり厳しくない。騎士團に"祓魔権"という公権力を付与する特例法の中で、騎士團員の労働三権の制限と労働関連法、および銃刀法の制約を受けないことが保障されているからだ。
そうはいっても、契約ということについてはさすがに国の規定通りになる。つまり、未成年は保護者の同意なしに契約を結べない。
要はこのままでは祓魔師になれないのだ。
「…さすがに、こんなこと電話やメールで話すのはなぁ…」
「せやなぁ、まぁ、ちゃんと会って話すんが道理やなぁ」
色々な形があってもいいとは思うが、やはり普通に考えればそうなる。先伸ばしにしてきたことが突き付けられたわけだ。そうやってタメ息をつくと、廊下と反対側の壁にある扉から燐が出てきた。
「なぁ皆、なんか先生たちが集会やってるってよ」
「え、てかなんなんその扉」
今まで気にも留めていなかったところから呼ばれては気になる。しえみや子猫丸とともに、2人もその扉へ向かうと、そこはベランダに繋がっていた。
ベランダは高さ40メートルほどの巨大な吹きぬけに面しており、壁は8角形の形をしている。40メートルの高層建築は学園にはないため、恐らく丘の地中をくり貫いているのだろう。
朝祇たちが出たベランダはその真ん中辺りに位置しており、下の地面には祓魔師たちが集まっている。
どうやら先にベランダに出ていたらしい勝呂と出雲が、なんの集会なのか教えてくれた。
今日は関東地方の出張所の所長や日本支部所属の祓魔師たちが集まって、支部長のメフィスト直々に発表を聞くらしい。もちろん、後で他の出張所にも伝達されるのだろうが。
そしてついに、司会らしい祓魔師が数段高くなったステージのような場所からマイクで始まりを告げる。
「それでは支部長から報告事項があります。フェレス卿、よろしくお願いします」
「グーテンモルゲン!呼ばれて飛び出たメフィスト・フェレスです☆」