逃げない−3
放課後の時間になってしばらくしても、朝祇から連絡が来ない。出張所の人払いをした一区画、中庭にて八百造、柔造、金造、そして廉造は朝祇の連絡を待っていた。
夜魔徳という志摩家しか知らない悪魔を使うため、メフィストは別の場所で待機させている。
出張所の場所は教えられないため、あらかじめ朝祇が終わったらメールをし、廉造が鍵で迎えに行くことになっていた。実は、勝呂の防衛のために、学校にも直通の鍵を用意してあったのだ。
掃除があることは聞いていたので、廉造は時間を過ぎても待っていたのだが、それにしても遅い。八百造は忙しいこともあって、痺れをきらす。
「おい廉造、まだかぃ」
「まだメール来とらん…どないしたんやろ」
柔造と金造も首を傾げ、廉造の携帯を覗き見た。メールは問い合わせても受信しない。
「電話出んの?」
「三回くらいかけてんねやけど、出ぇへん」
柔造はおかしい、と訝しんだ。短時間しか話していないとはいえ、朝祇が約束を反故にするようには思えなかった。
と、そこへ、出張所の連絡用の使い魔がやって来た。犬の姿をした使い魔は、くわえた紙を八百造に渡す。それを開いて目を通した八百造は、目を見開いた。
「っ!!廉造の学校で龍の姿をした悪魔出現やと!?」
「っ、黄龍や…!」
廉造は嫌な予感が沸き上がった。こんなところで、黄龍が暴れるのか。近くの倉庫に駆け寄り、鍵を差し込む。
「俺も行くで!金造は待っとけ!」
柔造もついてくる。その方が心強い。
廉造は鍵を回し、倉庫の扉から学校へと入った。
廉造たちの教室まで走ると、一部廊下が滅茶苦茶になっているところがあった。扉が倒れ、机や椅子のいくつかが散乱している。ガラス片やプリントなども散らばっていた。
そして教室に入ると、そこはもっと酷かった。
窓はすべて割れ、そのガラス片が飛び散った影響か、カーテンはビリビリに破けて力なく風になびく。天井からは照明カバーがいくつか垂れ下がり、床は 机や椅子、教科書やノート、プリント、ガラス片、砂で覆われていた。
その合間に、不思議と何事もなかったかのように不自然に綺麗な部分があり、そこに3人のクラスメイトと、朝祇が倒れていた。
「っ!一ノ瀬君!!」
廉造は思わず叫び、ぐちゃぐちゃな教室に飛び込んだ。机や椅子をどかしながら朝祇に駆け寄ると、ボロボロに脱がされたワイシャツと何も纏わぬ下半身に、何をされていたかすぐ理解した。
その瞬間、頭にぐわっと血が上る。近くに倒れる3人は、いじめの犯人たち。誰がやったかなんて明白だった。
「殺したる…っ!!」
「落ち着きぃや!廉造!!他のやつが来る前に一ノ瀬君連れて出張所戻るで!!」
柔造は今にも錫杖を組み立てて3人を殺してしまいそうな末っ子を宥めた。廉造は何も言わず頷き、怒りに肩を震わせるわりに丁寧に朝祇を抱き上げた。
2人は先程使った扉に戻り、出張所の倉庫から中庭に飛び出す。
ぐったりとした朝祇を横抱きにする廉造に、金造と八百造はぎょっとするが、急いで庭に面した部屋を開けて畳に横たわらせる。
「金造、医工騎士を呼んで来い。柔造は廉造と残って黄龍を監視や。俺はフェレス卿に伝えとくる」
驚いたのは最初だけで、八百造はすぐに所長としての冷静さで的確な指示を出した。金造はすぐに走りだし、柔造は布団を隣の部屋から運びだし、廉造は朝祇の手を握り締めた。
八百造はその後メフィストのところへと赴き、柔造は布団を敷いてそちらに朝祇を寝かせた。
「…大丈夫や」
柔造は廉造の頭に手を置く。こくり、と廉造は頷いた。