正十字学園−3
荷解きが終わる頃には12時を周り、空腹が気になってきた。当然というか、誰も料理はできないので、自然と外に出る流れになる。ここの学食が法外に高いことは知っていたので、探索もかねて繁華街まで出ることにする。
路面電車に乗り、少し揺られて学園中心から離れた繁華街へと出ると、すでに休み明けを待つ学生たちで溢れていた。
適当にラーメンを食べ、可もなく不可もない味に微妙な感想を抱いて店を出たときには、まだ13時半くらいだった。
「まだ早いんやね〜。これからどないします?」
「せやな………お、」
すると、勝呂が何かを見つけた。
そちらに目をやると、とてもスタイリッシュでファッショナブルな外見の美容院があった。そこに、カラー割引40%offとポップが出ている。
「……染めるか」
「えええ坊、どないしはったんです!?」
「いや、気合い入れよ思てな。金髪メッシュや!」
「き、気合い…まぁ、せやったら俺も染めよかな、女受け良さそうなピンクブラウンとか」
髪を染めるとどう気合いが入るのかは謎だが、勝呂はとりあえず気分として染めたくなったらしい。廉造も影響されたのか、女の子が好きなピンクを選んだ。
廉造はともかく、勝呂は恐らくナメられないようにしたいのではないかとも思う。先程から町中を行き交う学生たちは一目で金持ちだと分かる風体だし、聞こえてくるのも当然標準語だ。ただでさえここは事実上日本の首都であり(首都が東京であることを定めた法律はなく、国名が日本であること、国旗が日の丸であること、国歌が君が代であることすら法的根拠はない)、都市圏人口3000万人、域内総生産80兆米ドルという世界最大の都市だ。
京都や大阪、名古屋も都会だが、単独でG7に入れるほどのメガポリスには敵わない。決してそれが良い悪いという話ではなく、本来は何も気にすることはないし、むしろ生粋の都民は方言に憧れるのだが、勝呂は京都出身として何かを気負っているように見えた。東京モンにナメられとうない、という心の声が聞こえてきそうだ。
実際は都民といえど人口が人口だし、なんならスカイツリーも歌舞伎町も高尾山も小笠原諸島も東京だ。要は、ピンきりである。ただ、この街が金持ちの子女で賑わっているのは確かだ。勝呂の気持ちも分からないでもなかった。
「志摩さん、一ノ瀬君がおる前でそんなこと言うてええんですか…」
一方で常識人の子猫丸は、女の子のことを考えて締まりのない顔になっている廉造に少し慌てた。そういうところが心優しい。
「いいよ、子猫丸、気にしなくて。女の子受け良くしたいのは男に共通することだろ?俺だって気にするし」
「せやで子猫さん、女受け良うすることと朝祇への愛はちゃうねん」
「はぁ…」
「ほっとけ子猫丸、理解しようとするだけ無駄や」
財布の中身を確認した勝呂は大丈夫だったらしい、困惑する子猫丸にフォローを入れた。好きなタイプすら考えたことのない仏法僧の鑑である勝呂がおかしいのだが。
「それより、子猫丸はどうすんねや。俺と志摩は髪染めるで。一ノ瀬も染めるか?」
「僕は猫探しに行きます。学校始まったら難しいやろうし…」
「んー…俺は適当にフラフラして帰るわ」
基本的にこの4人は自由だ。ある程度は好きに動く。廉造がついているし、ここが騎士団のお膝元であることもあり、子猫丸は安心して猫探しに行けるのだろう。
朝祇も今日やっておきたいことがあったため、都合が良かった。
後で帰るタイミングになったらメールをし、各々で寮に帰ることを決め、散開した。