関係の進展−3


「にしても一ノ瀬、その……俺がサタンの息子って聞いて、怖かったりしなかったのか?」


燐は心配げに見上げるウコバクに微笑んでから、恐る恐る聞いてきた。雪男も途端に心配そうな顔になる。愛されてるな、と少しほっこりした。


「そもそも俺が悪魔の存在を知ったのは、黄龍に憑依された1年前。それまではそんな非科学的なもの信じてなかったんだ。青い夜のことだって、何の被害も受けてない。むしろ、同じ時期にルワンダや東欧で起きた虐殺なんて人間が人間を殺したんだ、目の前の奥村の方が比べるまでもなくマシ」

「お、おう…なんか難しいな」

「悪魔よりも残酷な人間なんて掃いて捨てるほどいるんだから、こうして俺のこと上げてくれた奥村のが、たとえサタンの息子だろうと優しいって思うよってこと」

「…そ、うか」


雪男はうんうん、と頷く。安心したように笑う燐に雪男も安堵したようだ。


「勝呂のこともあるしな。この前は庇ってくれてありがとう」

「気にすんなって!にしても、一ノ瀬と勝呂たちってどういう関係なんだ?同じ寺じゃねえだろ?標準語だし」

「そういえば僕も気になってました。仲良いですよね、勝呂君たちと」


確かに、端から見れば京都組の中で唯一標準語を喋る朝祇は異質に見えるかもしれない。考えたこともなかった。


「同じ中学だったんだ。黄龍の件で廉造の家族にお世話になってから仲良くなって、黄龍のこともあるから一緒に祓魔師になろうって思って。標準語なのは、東京から中3の一年間だけ引っ越したから」

「へぇ、そうだったんだな」

「まさに悪魔が繋いだ縁ですね…っと、雨が止んだようですよ」

「ほんとだ、そろそろ帰らないと…」

雪男は窓の外を示す。見れば、雨は上がって曇り空になっている。空の感じからして日もかなり傾いているようだ。夕飯を食いっぱぐれてしまう。
夕飯といえば、朝祇はふと気になった。


「そういえば、奥村って料理できんのな」

「兄さんの唯一の特技です」

「うるせえぞ雪男!まぁ、基本何でも作れるぜ」


これも意外だ。悪魔というだけでなく、普通にがさつそうに見えて料理ができるとは。今日の買い物の目的でもあったことを考えて、ダメもとで聞いてみることにした。


「あの、さ…よければ料理教えてくんね?できれば洋食」


実は、来る7月頭に廉造の誕生日を控えていた。プレゼントを買うにもお金があるわけではない、だから何にしようと決めあぐねていたのだ。学園に来てから既製品ばかりということもあり、手作りをしてみたい。


「おう、いいぜ!」

「良かった、また後で詳細決めたいからメアド教えて」


燐は快諾してくれた。やはり、なんというか燐は本当に優しい。特に何の得にもならないだろうに、二つ返事をくれるとは。
雪男も柔和な笑みを浮かべて様子を眺めている。大人びたところがある雪男のことだ、燐が悪魔と知られても気にしていない朝祇の態度に安心し喜んでいるのだろう。

こうして、燐の個別料理指導が実施されることとなった。


***


寮に帰ると、ちょうど廉造が自室から出てきたところだった。


「おーお帰り…ってどうしたん?それ」


廉造がそれ、と指すのは朝祇が着ているジャージだ。着ていたシャツとジーンズは袋に入れてある。


「傘持ってなくてさ、たまたま雨宿りしたところが奥村兄弟が住む旧男子寮だったから、奥村に借りたんだ」

「……へえ」


廉造は靴を脱ぐ朝祇に近付き、すん、と鼻を鳴らす。いったい何を、と思う暇もなく、廉造は朝祇の腕をつかみ朝祇の部屋に押し込んだ。


「う、わっ、ちょ、なんだよ!」

「んー、ええからええから」


そのままベッドに押し倒され、廉造が馬乗りになってくる。ぐっと近づく廉造に息を飲んだ。


「他のやつの匂いがするんは、やっぱ気に食わんなぁ」

「仕方ないだろ!」


突然なんだと言うんだ。朝祇は困惑と、僅かな恐怖を抱く。いつもの廉造とまったく違ったからだ。
そこに、朝祇の携帯がメールの受信を告げる。運の悪いことに、燐からのメールだ。それに気付いた廉造は勝手にそれを開いて確認する。普段はそんなことを決してしないため、驚いて止めることができなかった。


「いつ会う?…って、なんなん、2人で会う約束なんてしとったん?ずいぶん仲良うなったんやね」


す、と廉造の纏う空気が冷えた。鈍感ではない朝祇は、廉造がどんなことを考えているか察した。面倒なことになったな、と言葉を探す。
しかし、廉造は突然「あー…」と呻いて倒れ込んできた。朝祇に体重をかけないようにしながら、肩に顔を埋めてきた。いきなり軟化した雰囲気に追い付けない。


「れ、廉造…?」

「堪忍なぁ、頭では朝祇が奥村君と関係持とうとしとるとは思うとらんねやけど、どうしても気持ちが高ぶんねん…昔は、そうやって心乱して恋愛しとるやつバカにしとったんに、このザマやもん…」

「…、廉造」


朝祇はそっと廉造の背中に手を回した。あやすように撫でると、廉造が少し脱力するのが分かる。


「1ヶ月したら、お前誕生日だろ。プレゼントとか買えないからさ、奥村に料理習うことにしたんだ。あいつ、ああ見えて料理得意なんだって」

「へ……誕生日?作ってくれるん?」

「これから習うから期待すんなよ。でも…わざわざこんなことするくらい、1ヶ月前から動いちゃうくらい、廉造のこと好きだよ。だから、お前こそよそ見したら許さないぞ」

「〜〜〜!!!せえへんわ!!もう!!好きや!!!」


ここは素直に話そう、と誕生日のことを話せば、廉造は顔を赤くして叫んだ。勝呂たちに聞こえるんじゃないかと心配するが、朝祇の部屋から廉造の部屋を挟んで勝呂の部屋があるから距離はある。


「めっちゃ恥ずかしいねんけどめっちゃ嬉しいわ…」

「嬉しかったよ、嫉妬してくれて」

「やめたって!!」


最初は怖かったが、冷静に考えれば可愛らしい嫉妬だ。やはり、そうやって嫉妬してくれるのは嬉しいものだ。


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