冀うは、−7



「なんっだよこの漬物石…どんどん重くなるじゃねえか…!」


あのあと、雪男に連れられて旧男子寮へと戻るなり、大部屋に全員集められて正座に石の悪魔を乗せられた。禍々しい顔が浮かんだ直径30センチほどの石である。

「これも下級悪魔です…持っとるとどんどん重くなるんです…あぁ、また重くなったぁ…!」


律儀に子猫丸が答えるように、これはバリヨンという名前の悪魔で、持っていると重さが増していく。


「バリヨンも知らんのか、情けないやっちゃなぁ!」

「あぁ!?だいたいお前らの喧嘩のせいでっ」

「連帯責任というやつです」


石の重さ故か、苛立つ勝呂と燐が火花を散らしかけたところに、雪男が言い放つ。ちなみに朝祇はこっそり黄龍の力で石を浮かせた。土に近いものであれば、触れれば影響を与えることができる。


「この合宿は、学力強化の他に、交流を深めるっていうのもあるんですよ」

「こんなやつらと馴れ合うなんてごめんよ」

「馴れ合ってもわらなければ困る!」


相変わらず出雲が吐き捨てると、雪男はついに怒鳴った。


「祓魔師は一人では戦えない!お互いの特性を生かし、欠点は補い、最低2人以上のパーティーを組むのが基本です。実戦ともなれば、仲間割れは生死を分ける事態を招くことさえある。そのあたりを十分考えてください」


祓魔師の称号が分かれているのは、雪男の言うようにそれぞれに欠点や特性があるからだ。接近戦の騎士、中長距離戦の竜騎士、後方の詠唱騎士と医工騎士、距離に関係なく攻撃や防御ができる手騎士と役割がしっかりと分かれているのだ。


「僕はこれから三時間ほど、小さな任務で席を外します。ですが、昨日のグールのこともあるので、念のためこの寮に繋がるすべての入り口に鍵をかけ、強力な魔除けを施します」

「え、それじゃあ俺ら、どうやって外出るんすか」

勝呂の当然の疑問に対し、雪男はニッコリと笑う。嫌な予感がした。


「出る必要はない。僕が戻るまで三時間、みんなで仲良く、頭を冷やしてください」


そう言って、雪男は容赦なく部屋を出ていった。残された面々には暗いムードが漂う。


「もう限界や…!おまえとあの先生、ホンマに血ぃ繋がっとるんか!」

「ほ、本当はいいやつなんだよ…きっとそうだ…!」


実兄たる燐ですら自信をなくすほどの所業である。苛立つ勝呂は、雪男がいなくなったのをいいことに出雲を睨み付けた。


「誰かさんのせいでえらい目ぇや」

「はぁ!?あんただって私の胸ぐら掴んだじゃない!」

「お前が先に喧嘩売ってきたんやろ!!」

「また微妙に俺を挟んで喧嘩するんじゃねえ!」


勝呂と出雲に挟まれた燐は、至極もっともなことを言う。前までは勝呂と争っていたのは燐だったが、今は燐も大人になったのか、正論ばかりだった。


「ったく、ホンマ性格悪い女やな!」

「ふん、そんなの自覚済みよ!それがなに?」

「そんなんやと、周りの人間逃げてくで!」

「っ!」


懲りないな、とさすがに朝祇も呆れたそのとき、突然照明が暗くなった。急な出来事に全員バリヨンを落としざわつく。燐は足を直撃したらしく呻いていた。
停電かと疑うが、窓からは明かりを灯す町並みが見えている。この建物だけ電気が止まったらしい。もはや、お仕置きなど頭にない。この緊急事態に、廉造が立ち上がった。


「俺、外出てみよ」

「志摩さん、気を付けたってくださいよ」

「こういうのワクワクするタチなんや。リアル胆試し〜いうて…」


廉造が扉を半開きにした瞬間、廊下の暗闇に不気味な顔が浮かぶ。迷いなく廉造は扉を閉めた。


「なんや、疲れとるんやろか…」


そう言って廉造が目を擦った次の瞬間、扉を突き破って腕が室内に入ってきた。衝撃で扉は吹き飛びけたたましい音を上げる。


「うぉあっ!!」


廉造は叫ぶなり駆け戻り、燐の後ろに隠れる。気持ちは分からないでもないが、情けないだろ、と少し呆れた。
しかし、部屋に入ってきた悪魔はそんな油断を許さない。なぜなら、そいつは昨晩見たものと一緒だったからだ。


「昨日のグール!?」


出雲も気付いたようだ。昨晩襲ってきた、人型のナベリウスである。だが、昨晩と少し様子が違う。もう片方の縫い閉じられた頭が、ブクブクと膨らんでいた。まるで、何かを吐き出そうとするかのように。
そしてそれは、まさに思った通りだった。縫い目が破けるなり、頭は爆発するように開いて大量の液体を飛散させる。こちらもそれが一部飛んできて、朝祇は咄嗟に顔を隠したが、それより早く暖かいものに包まれた。直後、みんなの悲鳴が上がりビチャビチャと水音がした。

目を開けると、なんと廉造が朝祇のことを抱き締めていた。その背中にはべっとりとナベリウスの体液がかかっている。他の生徒たちも同様だ。


「なっ、廉造…!?」

「はは、いやぁ、朝祇にぶっかけてええんは俺だけやし…」

「こんなときに何言ってんだ!」


幸い、炎症とともに重症化するものではなかったようだが、守られてしまった。


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