強くなる−4



「一ノ瀬君、直感でなにかこうすれば、みたいなものはありますか?」

「直感…」


銃に悪魔を憑依させるという複雑な行為に直感なんて、という気分になるが、何となく、無いわけではなかった。


「…多分、」

「おっ、じゃあ試してみるか」


斎藤は快くベレッタを貸してくれ、裏の射撃場へ通してくれた。的が10メートルほど離れて並ぶ、アメリカならどこにでもありそうな射撃場だ。
そのひとつの的を前に、朝祇は銃を構える。右手でホールドし、トリガーに指をかける。ついで、左手で銃身を上から軽く掴んだ。


「冀うは朱夏が烈火」


そして一言呟き左手を離すと、銃身に赤く光る文字が現れた。『炎駒』と刻印された銃身を見て、雪男と斎藤が目を見開いた。合宿で世話になった、南を司る麒麟の別種だ。

慎重に照準を合わせ、セーフティーを外す。そして、両手を添えて、人差し指でトリガーを引いた。

その瞬間、ドーン!という爆音とともに拳銃から炎が吹き出し、的を爆破した。衝撃で後ろに吹っ飛んだ朝祇を雪男が抱き留める。


「……へっ…」

「って消化消化!」


燃え上がる的を見て、斎藤は慌てるが近くに消火器がない。火薬を扱う控え室にしかないらしい。しかし、炎は高く燃え上がる。


「やばい、冀うは玄冬が豪水」

そこで、朝祇は懲りずに銃身に左手を被せもう一度唱えた。すると、赤い炎駒の文字から『角端』に変わる。北を司る麒麟の一種だ。再びトリガーを引くと、やはり爆音とともに文字通りの鉄砲水が的に向かって吹き出し、炎を的ごと消し去った。そう、的は粉々になった。
反動は雪男とともに後ろへ飛ばされることだったが、雪男がかなり受け流してくれたため、無様に転ぶことはなかった。


辺りにはようやく沈黙が落ちる。
やってしまった、と朝祇は凄惨な的の残骸を見て顔を青ざめさせた。


「あっはっはっは!!いやぁ〜!!久しぶりにスリル味わったぞ!!」


しかし、斎藤はあっけらかんと笑い出す。思わず凝視すれば、斎藤はガシガシと朝祇の頭を乱雑に撫でた。


「え、あ、あの、」

「なに、気にするな!それよりも、こんなに面白いものを見せてもらったんだ、的がひとつ粉砕されるくらいどうってことないさ!将来が楽しみだが、いかんせん普通の拳銃だと1発の威力が大きすぎる」


斎藤は待ってろ、と言って店に戻る。その間、雪男は難しい顔をしていた。


「…すみません、奥村先生。連れてきてもらったのにご迷惑を…」

「え?いや、それは斎藤さんがいいと言っているからいいんです。それより……」


雪男が言い終わらないうちに、斎藤が戻ってきた。その手には、少し形の違う拳銃が握られている。ベレッタのような普通のものは、持ち手であるグリップと銃身は3:4くらいで銃身が長い。しかし、今斎藤が持っているものはグリップと銃身がほぼ同じ長さだった。


「これはグロック18C、オーストリア製で、公的機関以外への販売はされていない特殊なものだ。騎士團は特別に仕入れている」


持ってみると、ベレッタよりも少し重い。また、銃身のグリップ寄り左側面に切り替えスイッチがあった。


「こいつは普通の拳銃としても使えるが、設定を変えれば毎分1200発の速さで連射ができる。この連射機能を使えば、悪魔の力が分散して扱いやすくなるはずだ。銃身自体が発射とともに後ろへスライドするから、衝撃もある程度緩和される」

なるほど、と感心した。武具屋だからこその案だ。朝祇では連射による分散など考え付かなかっただろう。


「君の力は騎士團で重宝される。その出世払いに期待して、それは餞別としてくれてやろう」

「えっ、そんな…」

「気にするな!その代わり、祓魔師になって活躍するようになったら色んな銃でその力を試してみてくれよ。めちゃくちゃ気になる」


銃火器を扱う者として、悪魔が憑依した銃がそれぞれどのような発撃を行うのか知りたいようだ。色んな銃を扱えるだけの実力が得られてからになってしまうが、喜んで協力したい。


「ありがとうございます…!アサルトライフルでもグレネードランチャーでも何でも見せますね!」

「おう、その意気だ!」


簡単な銃の説明と、使うときは必ず竜騎士資格を持つ者に立ち会わせることを念入りに言われ、朝祇と雪男は帰路についた。帰路といっても、扉を開けばそこは旧男子寮前だが。

少し日が傾きつつある空は、一番暑い時間帯であることをまざまざと見せ付けられた。雪男はずっと黙ったままで、少し不安になる。


「あの…奥村先生…?」

「…あぁ、すいません、少し考え事をしていて…」


ぼんやりとした雪男は、特に怒っているとかいうわけではないらしい。そんな雰囲気も、上から落ちてきた声に霧散する。


「おーい、雪男、一ノ瀬!帰ってきたんなら上がれよ!」

「今行くよ!一ノ瀬君も上がりますか?」

「えっ…あ、そこまでお世話になるには…」

「一ノ瀬来いよ〜!つか飯作ろうぜ!」


雪男には今日は世話になりっぱなしだったため心苦しいが、燐が臨時料理教室を開催してくれるのはありがたい。もう、2週間しないうちに廉造の誕生日だからだ。


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