海の悪魔−4
それから一時間ほどしてから廉造たちは帰ってきた。ちょっと見に行っただけの割にとても長く留守にされてしまった。出雲が助けられた時点で水虎は虚無界に帰していたから体力に問題はないが、どこをほっつき歩いていたのか。
戻ってきた3人に思わずむす、とした顔を向けてしまったのは仕方ないだろうと思う。
「朝祇すまん!ちょお色々あってな、」
「ごめんな一ノ瀬!」
廉造と燐は真っ先に済まなさそうにして謝ってきたが、出雲はよく分かっていなさそうだ。
「ま、神木さんと奥村はもともと自由時間だし?いいんだけどさぁ…」
「ホンマ堪忍やってぇ…」
廉造は今の時間は担当だったのだ、放っておいて一時間も空けていたのは責められて然りである。
どちらかといえば、朝祇は担当を抜けていたことよりも放っておかれたことの方が怒っているのだが、それを言うと面倒なやつみたいで嫌だったため黙っておく。
「どこ行ってたわけ?」
「出雲ちゃんと合流したら、なんや港の方が騒がしくなってな。出雲ちゃんを助けた洋平君っちゅう男の子も駆け出すもんやから港に行ったら…」
「沖の方がめちゃくちゃ黒くなってたんだ!そしたら坊さんが悪魔の仕業だっつーからよ、」
「話を聞きについていったら、山の中の寺にある絵馬に巨大なイカの悪魔が描かれてたのよ。そいつの墨で黒くなったんだわ」
廉造、燐、出雲と相次いで説明をするものだから、小学校の学芸会とか卒業式の児童たちの言葉のように思えて、怒りを忘れて笑いそうになった。真面目に話しているから堪えたが。
「クラーケンのことか…?まさかそんなもんが日本にいるなんてな。それで遅くなってたわけな」
「おう!イカ焼きはどうだった?」
「結構売れたかな」
「えっ!」
燐は在庫を覗き込み、3割ほどなくなっているのを見て声を上げた。廉造は朝祇が機嫌を治したのか掴み損ねておろおろとしている。
「お姉さんたちにお願いしたら買ってもらえたよ」
「くそ、やっぱ世の中顔かよぉ…!」
燐も悪くないだろうに、とは思うのだが、その後ろでさらに困ったような顔をする廉造よりはむしろ男前に見える。それを言うと泣きそうなので、やはりこれも黙っておいた。
***
夕焼けの鋭い光が海から指してくる堤防沿い、4人は海の家でのイカ焼きを終えて民宿に向かっていた。右手に見える海に、廉造たちが言っていた墨の黒さはない。廉造は朝祇の視線を追ったのか、口を開く。
「に、にしても、こんなとこに来てまで悪魔なんてなぁ〜、はは、」
取り成そうとする廉造にジト目だけ返してやると、びくりと肩を揺らせた。そろそろからかいの気持ちしか残っていない朝祇である。
「それ倒すのが初任務、のが良かったんじゃねぇ?」
燐はそんな2人に気付かずマイペースに返す。前に実践派、なんて言っていたのは本当だったようだ。
すると、それを言った直後に燐がどす、と何かにぶつかって止まった。後ろを歩く3人は自然とつられて止まり、燐の前を見る。
「ってーな!気を付けろ!」
燐に向かってそう怒鳴ったのは、小学生高学年くらいの少年。浅黒く焼けた肌にノースリーブシャツと短パン、まさに田舎の小僧感が出ている。
「どこ行ってたんだよ、心配したんだぞ」
怒鳴られた燐は特に怒りはしていない。言葉からして、出雲を助けた洋平という少年なのだろうか。
「その子?洋平君って」
「そうよ」
小さく聞くと、出雲が答えてくれた。やはり合宿以来、少し丸くなったというか、他の生徒たちと話すようになっている。
「ったく、俺たちが前から来てんの分かってたんなら道開けてくれりゃいいのに」
「やだね!男なら道を曲げるな、まっすぐ歩けって親父が言ってたんだ!」
「そりゃ喩えってもんやろ、だいたい、道曲がらんかったら迷ったりせえへんか?」
「ないない」
頑なな様子の洋平に廉造が苦笑混じりに言えば、燐が関西弁のイントネーションでツッコミのようなものを入れた。こちらはこちらで随分と仲良くなったものだ。
そこへ、何やらメモを取り出して2人に突きつける洋平少年。
「なぁ、これの場所知らないか?」
「あ?」
「だから…迷ったんだ!!」