鬼ごっこ−4


実体を持たないゴーストは空気抵抗もなにもなく、すばしっこく移動する。すぐに目視では見えなくなり、どこかへいなくなってしまった。
一旦3人は最初の銅像のところまで戻り、辺りの広い空間にいないことを確認する。


「まだそう遠くないところにいるはず…分かれて探そう」

「そうだね!私、あっち見てくる!」


「分かった、じゃあ俺はこっち行く」

手分けすることにして、しえみはミラーハウスの方へと向かった。朝祇はその反対へ探しに行くことにした。


「俺は雪男に電話するわ」


燐は見つけたら報告することを覚えていたようで、まずは電話することにしたらしい。朝祇は頷いて任せ、走り出す。
先ほどまでいた飲食店の区画の近く、グッズを販売する店が並ぶ通りにやって来て、ファンシーな建物の間を隈無く見渡してゴーストを探した。

すると突然、何かはよくわからないが、体がざわついた。鳥肌が立ち、何かが近くにいるような、本能的な忌避。


『…面倒なことになった』

(なにが…?)

『何故かは分からぬが、広場にアマイモンが現れた』

(アマイモン、て…地の王のこと?)

『あぁ。結界の干渉を受けていないところから察するに、時の王の差し金だろう。サタンの落胤に対するな』


この学園周辺には、中級以上の悪魔は入ってこれない。それは、メフィストが結界を張っているからだ。そこに、悪魔の八侯王の一人である地の王アマイモンがいるということは、同じく八侯王の一人である時の王メフィストが関わっているはず。
しかも広場ということは、十中八九、燐が狙いだろう。メフィストの差し金であれば燐を殺すつもりではないだろうが、一体何を考えているのか。


(瞬間移動だよな、黄龍が今気付いたってことは)

『そうだろうな』

(俺や杜山さんがいなくなってから、ということは一応生徒に対する配慮はある。メフィストが何の目的で奥村を匿っているのか分からないけど、駒として使うためなのは間違いない)


何やら大局的なゲームをしているメフィストにとって、この世界での正十字騎士團は駒に過ぎない。それは、以前学園にやって来たばかりの頃に廉造の居場所を巡って取引したときに分かったことだ。そして燐は、その中でもとても特殊な駒であるはず。でなければ、バレれば即刻ヴァチカンに尋問されかねないリスクを犯すはずがなかった。


(悪いようにはしないとして、アマイモンを呼び出した理由は…?サタンの異母弟どうしの懇親会なわけないし…アマイモンを呼び出さなければできないことがあるはず…)

『サタンの落胤と普通の悪魔、サタンの落胤とアマイモン、この関係性の違いにあるだろう』


黄龍はどうやら察しているようだ。ヒントらしいことを言ってくれた。普通の悪魔にはできなくて、アマイモンでなければできないこと。


(サタンの子、八侯王じゃないといけない…?同じサタンの子でないと…何ができない…?)


簡単に考えれば、やはり力の差だ。普通の悪魔と八侯王では遥かに実力に差がある。つまり、力がないとできないことだ。
そして、それをしなければいけないとメフィストは考えている。駒としての燐に、アマイモンを会わせなければできないことである。さらに言えば、今この状況でなければいけない。無人の遊園地、近くに他の学生がいない。


(奥村の正体をバレないようにするために、人払いをした…それだけなら他でも大丈夫…遊園地でわざわざした…広さ…?正体を晒す前提なのであれば、奥村にサタンの力を出させるためってこと…相手はわざわざ地の王……まさか、そういう…?)

『あぁ。恐らくそれで正解だ』



メフィストの目的。それは、駒としての燐の実力をはっきり知ることだ。つまりは力試し。そのためには、十分な広さがありつつ人払いができていなければいけない。他の学生も払ったのは、バレないようにするためと、大規模な戦闘に巻き込まないため。八侯王クラスでなければ燐の本気についていけない。

それが分かり、朝祇は迷った。間違いなく、燐は今危ない目に遭っている。メフィストは恐らく燐を殺すつもりはないだろうが、悪魔に絶対はないし、使えないと思ったら切り捨てるかもしれない。
助けに行くべきか?しかし、メフィストの邪魔になるかもしれないし、そもそも候補生程度が地の王と張り合えるはずもない。


『おい、助けに行く気か』

(…分かんない、迷ってる)

『お主に何ができる。我は地の王の眷属、我ができることなど限られておる』

(麒麟の別種使うよ。地の王なら…聳弧か角端かな)


地の王を相手取るなら、属性としては五行説で言えば木か水だ。地の王の眷属である黄龍と麒麟は出してもあまり意味がない。


『あまりに無謀だ。分かっておるのか?』

(分かってる。ほんの少しだけ時間を稼いで、奥村を大人たちの視界の届くところまで逃がしたい)

『死ぬぞ』


端的な黄龍の指摘はごもっともだ。だが、もう指をくわえて見ているだけなのは嫌だった。あの合宿の苦い記憶が甦る。グールを前に、怖くて立ち竦んでいた自分は、もう棄てたのだ。


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