鬼ごっこ−5
そこに、鉄骨が崩れ落ちる鈍い金属音と爆発音が響いてきた。建物越しに見えるジェットコースターから煙が上がり、ガラガラと鉄骨が落下していく。
明らかにおかしい。
もう迷っている暇はなかった。朝祇は広場へと走り出す。
『八侯王相手に、お主に何ができる!身の程を弁えろ!!』
「ケツの青いガキは身の程弁えないのがステータスなんだよ!」
『ただの学友だろう!命を懸ける必要がどこにある!?』
「黄龍からしたら、長い時の中でひとりひとりはどうでもいいかもしれない。けど、人間は違う!短い人生の中で、目の前のひとりを大事にできるから人間なんだ!」
『助けて何になる!何の得になるのだ!』
「生憎と損得で考えるのは大人の仕事なんでね!助けたいと思った、ただそれだけだ!!」
燐はきっと、朝祇やみんなを助けるだろう。そういう優しいやつだ。だから、朝祇も助けたい。周りの人間を助けられる祓魔師になりたいと決意したのだ。
「それに、八侯王と少しでも渡り合えないでお前のこと助けられないだろ、黄龍!」
『…っ!!』
ついに広場に辿り着く。
燐はジェットコースターの足元の地面に叩き付けられ、その上に乗る男、恐らくアマイモンに何度も殴り付けられていた。何度も、何度も。
「奥村!…玄冬が瑞獣、毛蟲が長、冀うを聞くはその礼徳の大なる故ならずや」
印章紙を取りだし、血をつけて唱える。するとそこから光が飛び出して、漆黒の毛並みをもつ一角獣が現れた。角端だ。美しい毛並みを撫でて、アマイモンを指差す。
「相手は地の王アマイモンだ…でも、少しだけでいい、戦ってくれ」
角端はひとつ頷くと、高らかに空へと舞い上がり、空中を駆け出した。そして、燐に馬乗りになるアマイモンを突き飛ばす。直前まで気配に気付けなかったアマイモンはジェットコースターの鉄骨にぶち当たった。
近付いたら一瞬でやられる。朝祇とて、無謀なことはしない。まぁ、すでに無謀だといえるが。
とりあえず時計台に隠れ、様子を伺う。
アマイモンは突然現れた角端を睨み、一瞬で間合いを積めて角端に殴りかかった。角端は俊敏に避け、1秒もかからずにアマイモンの周りの空中に巨大な水の球を出現させた。それにアマイモンを包み込む。
だが、すぐにアマイモンはそれを弾き飛ばし、水飛沫と化した。ぎらついた日光によって、虹がかかる。
燐は突然のことに唖然としていたが、角端の正体に気付いて辺りを見渡した。朝祇がいると気付いたのだろう。その身には青い炎を纏う。サタンの象徴だ。
アマイモンは煩わしそうに角端に迫り、一発拳をいれる。角端はそのまま突き飛ばされ、地面に叩き付けられた。
「角端っ!…、冀うは青春が錦木」
朝祇はグロック18Cを構え、左手を添える。聳弧という字が銃身に浮かぶのを確認して、アマイモンに照準を合わせる。
「黄龍、フォロー頼む」
『ええい、仕方のない奴よ!!』
黄龍は珍しく声を荒げた。後でしっかり謝らねばなるまい。
「好きに暴れていいよ、できればアマイモンからエネルギーとって」
『言われんでもそうする!でないと死ぬぞ!』
「へーい」
朝祇は一気に時計台から躍り出た。そして、アマイモンに向けて連射を開始する。勢いよく放たれる銃弾は、角端に近付くアマイモン周辺で爆発し、大量の木の枝を散開させる。閉じ込めるようにしてアマイモンを拘束すると、アマイモンはこちらを見た。
「君ですか、僕の邪魔をするのは」
「一ノ瀬っ!!だめだ、逃げろ!!」
「奥村こそ早く逃げろ!!じゃないと俺も逃げらんない!!」
そう叫び、朝祇はさらに打ち続ける。アマイモンに直撃させ木の根っこを突き刺すが、まったくアマイモンは意に介さず拘束する枝を粉々にする。
「兄上からは他の人間に手を出すなと言われているけど…殺すか」
そう言うとアマイモンは一気にこちらへ近付いた。途端に朝祇の目の前に地面から5メートルほどの土の壁が現れる。コンクリートを突き破る轟音とともに影に覆われる。
「っ、この調子で水道管ごと地面ぼこぼこにしつつ時計台ぶっ壊して」
『任せろ』
アマイモンから体力を吸いとった黄龍は猛烈な強さを誇るようだった。次々とアマイモンを妨げるように地面から柱を突きだし、そのひとつが水道管を突き破り、大量の水が吹き出す。
土埃と水の柱、土の壁に辺りは視界が悪くなり、そして時計台の根元が突如として砕け散った。
アマイモンに向けて時計台は倒れていき、朝祇はアマイモンが避ける直前に銃弾を撃ち込み木の枝で拘束する。
そして、ドーン!という轟音とともに時計台は地面に倒れた。その隙に朝祇は角端に駆け寄る。
「大丈夫か!?ごめんな、無理させて…虚無界で休んでてくれ」
角端の毛並みを撫でてやり、虚無界へと帰す。今度はこちらへ走ってくる燐へと向かった。