鬼ごっこ−7



「何があったの、兄さん!!」


そこに、雪男が駆けてきた。しえみもやって来て、やっと異常な事態が終わったのだと脱力する。


「燐、怪我してる!雪ちゃん、手当てしてあげなきゃ…」

「い、いいから…それよりしえみ、ゴーストは?」

「ぁ…うん、ありがとう、って言って、消えちゃった」

「そっか」


どうやらゴーストは解決したらしい。とりあえずは一件落着か、と思うと、グレーのパーカーが視界に映る。


「おせぇぞ雪男!おかげであたしが動くことになったじゃねぇか」

「…まさか!」


山田は、まるで長年の知り合いのように雪男に声をかける。最初怪訝な顔をした雪男は、やがてハッとする。


「え…山田、じゃねえの?」


燐の疑問ももっともで、朝祇にも何がなんだか分からない。山田はおもむろに服を脱ぎ出した。
そして、巻いていたさらしを取り外すと、しえみと燐、そして朝祇は愕然とした。驚きすぎて声も出ない。


「あたしは霧隠シュラ。日本支部の不審な動きを監視するために正十字騎士團ヴァチカン本部から派遣された上級監察官だ」



***



シュラは豊満な胸を僅かなビキニのような服で覆い、腹も肩も露出した大胆な出で立ちの女性だった。山田は完全な偽名と変装だ。
そして、メフィストを連れてくるよう遅れて駆けつけた椿に言い伝え、シュラは燐と雪男を連れて日本支部の基地へと行ってしまった。残されたのは、ついていけない朝祇としえみ。椿は電話をしている。相手はメフィストだろう。


「燐…大丈夫かな」

「頑丈そうだし、大丈夫だよ」


心配げなしえみに申し訳程度に言うが、やはり変わらない。心優しい子だから仕方ないだろう。


「…心配?」

「うん、もちろん…私にできることなんて、まだまだ少ないから…」

「…杜山さんみたいな子が近くにいれば、奥村も無理しないんじゃない?」

「……?」

「そうやって心配してくれる人がいればさ、無理できないもんだよ。杜山さんが近くで心配してあげるだけで、あいつの自制になるよ。だから、側で見守ってやって?あいつが無茶しないように」

「…うん!そうだね!ありがとう。一ノ瀬君、いつもクールだから怖い人だと思ってたけど、優しいんだね!」

「え、俺怖かった?」


すると、しえみから衝撃的な言葉。まったくそんな自覚はなかった。少しショックを受けると、そんな朝祇に気付いたのかしえみも慌てる。


「あっ、変な意味じゃなくてね!いつも、一歩引いたところにいて大人っぽいなぁ、って思ってたし、真面目な顔してるときの一ノ瀬君って、ちょっと近寄りがたい感じがあって…」

「フォローになりきれてないよ…」


ただ、何度か言われたことのある言葉だ。京都に引っ越す前も、たまに友人から「ふとしたときにクール過ぎて怖い」と言われた。京都にいるときも、勝呂や廉造に「怒っとるんか」と聞かれたことがある。
どうやら、真面目な顔をしていると冷たい印象を与えてしまうらしい。


「ご、ごめんね…?」

「ううん、思い出せばよく言われた気がするからいいよ。…あ、みんなも来たね」


ようやくそこに、廉造や出雲、勝呂、子猫たちが戻ってきた。全員、唖然として広場を見渡している。


「なんやものっそい音しとったし、地震もあったけど…何があったん…?」


廉造が言う通り、広場は完全に廃墟と化していた。中央の時計台は倒壊し、周りには地面から土の壁が無数に突きだしている。水道管が破裂して水が吹き出し、バルーンハウスは全壊し、ジェットコースターは一部が崩落して辺りには鉄骨が散乱している。
地震だけでこうなるはずがない。

朝祇は素直に言うべきか一瞬迷った。だが、それは燐のことと不可分だ。言わない方がいい。


「分かんない、俺も来たときにはこうなってて…杜山さんは?」

「私も、バルーンハウスにいたらいきなり地震のあと鉄骨が落ちてきて…そのあとは分からないの」


しえみも朝祇も、ギリギリまで鉢合わせなかった。そのため、嘘をついても合わせる必要がなく、すんなりと嘘は通った。少し心苦しいか致し方ない。


「あー、諸君。御苦労様だったね、ゴーストの件は無事、解決したよ。今日はこれで解散だから、帰って宜しい」


すると、通話を終えた椿が集まった全員にそう告げて、足早に去っていった。雑な終わりかたはいつものことだ。
釈然としないまま、全員で帰路に付いた。


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