転機と決意−5
子猫丸の提案はこうだ。
まず、化燈籠をリアカーに乗せた上で、勝呂が暗唱して化燈籠の動きを止める。動きを封じる札を貼り、対応する教典は勝呂が覚えているものを唱え続けるのだ。
続いて、しえみがリアカーに化燈籠と一緒に乗って虫豸を火にくべる。化燈籠は燃料がなくなると勝手に火を消してしまうからだ。
そして、朝祇、廉造、子猫丸でリアカーの周りを歩いて火に群がってる虫豸を追い払い、適宜燃料のためにしえみに死体を渡す。廉造と子猫丸はリアカーの横、朝祇は正面だ。
最後に、燐が馬鹿力を活かしてリアカーを牽引する。
特に異論はなく、いよいよ動き出す。燐の横で、朝祇はグロック18Cに炎駒を宿して構えた。ちなみに、遊園地でアマイモンという緊急事態に際して無許可で使ってしまったが、シュラが問題なく使えていると判断してくれたおかげで今回も使用していいことになっていた。
「ヒィ〜!!来た!!」
さっそく虫豸が寄ってくると、廉造は情けない悲鳴を上げながら錫杖をぐるぐると体の前で回転させて祓った。情けないがさすがの身のこなしではある。子猫丸は致死説を唱えて祓っていた。
そして、正面からも大量にやって来た。燐がまともに歩けるようにするために、ここで虫豸を祓うのは肝要な役目だ。
「任せろ奥村、焼き払ってやる」
「おお!頼む!」
銃口をこちらへ大挙してやって来る虫豸に向ける。そして、引き金を引いて銃身の猛烈なスライドが始まった。連続して大量に打ち出された火の玉が、前方の虫豸に当たり小規模な爆発を起こし、周りの虫豸を巻き込む。
あっという間に前方の虫豸は幅5メートルほどの炎の塊となり、一掃された。
「もうちょい遠いとこで被弾させないとな」
「…マジで焼き払ったな…」
呆然とする燐に「そだよ」と軽く返し、近寄り始めた遠くの虫豸にさらに発砲する。これくらいなら燐が速度を緩めずに前方の虫豸を祓えるが、代わりに周囲の森に火がついた。
「あっ…まぁいっか」
「何がだよ!?」
***
やがて、前方が開け始めた。鳥居のようなものが立っているが、どうやら橋のようだ。
しかし、近くになってその橋がとてもリアカーを通せそうにないことに気付き、慌てて燐は止まった。後ろを着いてきていた勝呂がそれによってぶつかり、鼻を押さえている。
「なぁ、どうすんだこれ」
燐と橋を見てみると、吊り橋は辛うじて板が吊るされて渡れるだけで、リアカーは通せない。しかも、橋の下の川は謎の芋虫のような虫で埋め尽くされていた。
「ひぇぇ仰山おる!!??は、はは、ここで失禁したろか…」
絶叫した廉造は、錫杖を握り締めて失禁しそうになっていた。朝祇はそこまでではないが、さすがに鳥肌が立った。
「いっそ失禁しちまえば楽になんじゃねえの」
「奥村君、そんな益体のないこと言うてはあかんよ。失禁だけに、したら最後、すべてを失うんや」
僧のように語る子猫丸は正しい。正しいが、その内容はまさに益体のないものだ。
勝呂は相変わらず経典を唱え続けながら廉造から錫杖を奪い、そして思いきり虫沼に突き刺した。ぐちゃぐちゃという音は、虫が潰れる音なのか泥を掻き分ける音なのか、正解は知りたくない。
廉造は半泣きだった。
どうやら何かを確かめたらしい勝呂は、どこから持ってきたのかノートに図解を始めた。案があるようだ。
その案とは、化燈籠に自分で渡らせる、というもの。まずリアカーから化燈籠を下ろした上で、燐がリアカーを担いで虫沼を歩いて渡る。底は浅いらしい。対岸には燐と子猫丸が控える。
そして、ギリギリまで暗唱をする勝呂がそれを止め、札を剥がす。同時に、廉造がしえみを担いで虫沼を歩いて渡る。
化燈籠はしえみを追いかけて自ら虫沼を渡り、そして追いかけた先のリアカーに乗ったところで子猫丸が札を張って詠唱を行い動きを封じる。
朝祇はもしも廉造たちが化燈籠に追い付かれそうになったときに備えて、橋の上からいつでも射撃できるよう構える。