いざ米国−4
ライトニングに案内されたのは、郊外にある教会だった。十字架からしてカトリックだろう。その教会の地下に、フェニックス出張所は居を構える。
教会の入り口に立っていたサボテンが印象的だった。
「あんな大きなサボテン初めて見ました」
「この辺りはたくさん生えてるからね。フェニックスのシンボルでもあるよ」
地下の出張所は普通のビルの地下階のようなもので、あまり人とはすれ違わない。廊下の英語は何とかここが仮眠室区画であることが読み取れた。
「あの…なんでフェニックスにいらっしゃるんですか?ニューヨークとかロサンゼルスとか、主要なところに配属されてるんじゃないかなって思ってたんですが…」
「配属はニューヨークのアメリカ支部基地さ。でも、ぼかぁエスニックなものが大好きでね。フェニックスはインディアンの面影を色濃く残すところだから、アメリカでもここが一番好きなんだ」
「インディアンみたいな格好されてますもんね。…どちらかというと南米系っぽいですけど」
「よく知ってるね!まぁ、雰囲気だよ雰囲気。それに、フェニックスにいることが多いだけで、基本的にはヴァチカンと各国を行ったり来たりさ」
朝祇の質問に存外きちんと答えてくれるライトニングは、ある部屋で立ち止まる。仮眠室だが、プレートに『Lightning』とガムテープに油性ペンで書かれている。
「ここ、僕がフェニックスで使う部屋。あんまり来るもんだから用意してくれたんだよね〜」
そう言って扉を開けたライトニングだったが、室内は惨憺たる有り様だった。とにかく物がごちゃごちゃと床を埋めつくし、ところどころ虫がたかっている。まさに汚部屋。
「…見なかったことにしよう」
ガチャリ、と扉は閉められた。それがいい。
ライトニングは隣の誰も使っていない部屋を開けた。ベッドが2つ、簡易キッチンやシャワールームもある。どうやらバスタブもあるようだ。住める。
「おっ、ちょうどベッドも2つあるし、1週間はここで共に過ごそうかぁ」
「…えっ、1週間?てか共に?」
「はは、君はほんとに期待通りのリアクションしてくれるねぇ」
笑いつつ、 冗談ではないらしい。
ライトニングは右側のベッドにどかりと腰掛ける。埃が舞ったが、それはベッドではなくライトニングからだった。さすがに、少し我慢ならない。特段きれい好きでもないが、限度はある。
「さて、ぼかぁ来週末からイエメンに派遣されることになっていてね。ヴァチカンを通せば一瞬で行けるけど、いかんせんサヌアに着いてから現場までが時間がかかる。だから、君の面倒を見れるのは1週間てわけだ」
アラビア半島の南西の端に位置するイエメン共和国は、かつてイエメン王国として独立していた北イエメンとイギリス保護領アデンという植民地だった南イエメンとの連合国家のような国だ。長く続いた紛争により、銃の方が人より多いとされ、男児が生まれると「銃が増える」と表現する。
正十字騎士團のイエメン支部は首都サヌアにあるが、日本やアメリカのような地方の出張所は少ない。そのため、現場への移動が大変で、今回の留学も1週間で切り上げなければならないそうだ。
「…それは分かりました。でもなんで同じ部屋なんですか…?」
「いやぁ、ついでに食事とか掃除とか面倒見てもらえるかなぁって」
「……それは構いません、けど、風呂は入ってもらいますよ」
「えぇ〜」
「………」
思わずじとりとした目を向けると、ライトニングは仕方がないとばかりに肩を竦めた。なぜ我が儘を言っているかのような扱いを受けているのだろうか。
「分かった分かった、じゃあ、一緒に入ろう」
「何が分かったんですか!」
「ははは、変な意味じゃないよ」
さらに何を言うのかと思えば変なことを言い始め、朝祇はますますライトニングをジト目で見ざるを得ない。
「…君のそれ、黄龍が憑依してる証だろう?」
「っ、はい、そうです」
だが、ライトニングは軽い感じを崩さないまま朝祇の捲った袖から覗く腕に浮かんだ模様を見て指摘する。
「フェレス卿から話は聞いてるよ。…今彼はヴァチカンにいるだろうけどね。人に悪魔を強制憑依させる組織の活動が活発化しているから、つけこませないよう君の実力を確かなものにすることが今回の目的だってのは納得してる。確かに、このままだと君は危ない。まずは現状把握しないと」
真面目に語りだすものだから面食らう。腐っても四大騎士だ。
「…でも一緒に風呂入る必要あります…?」
「ここで電灯に照らされたもとで全裸になりたいならいいけど」
「すいませーん…」