いざ米国−7
「それだけでもぶっちゃけすごいけど、フェレス卿から聞いてるように、それは完全じゃない」
「…はい。先祖の血縁契約と、黄龍を宿すからだと聞きました」
「そうだね。それに、本当の契約を結べれば印章紙はいらない。それは契約を結べていない悪魔の強制召喚に必要なものだからね」
「そうなんですか…」
血のついた印章紙を見たあと、麒麟に目を向ける。何度も印章紙を使って無理矢理呼び出してしまったというわけだ。それはなんだか申し訳ない。悪魔だって生きているのだ、こちらのエゴで無理矢理物質界に呼び出すのは忍びなかった。
「ごめんな、何度も無理矢理呼び出したりなんかして。麒麟だって生きてるのにな…どうしよ、好きな子と一緒にいるときに呼び出したりしてたら…あ、でも麒麟はオスでもありメスでもある神格級の悪魔だからそういうのはないのか…?」
「…ぷふっ、くく、…!」
麒麟の首もとを撫でて謝ると、突然ライトニングが噴き出した。何事かとそちらを見ると、笑いを堪えようとして全然堪えられていなかった。
「…なんですか」
「いや…っ、だって、好きな子って…!いやぁ、君ほんと面白いねぇ!面白くて可愛くてエロくて最高じゃないか!」
「麒麟、あいつだ」
後半の言葉に表情がひきつるのを感じた。よくもまあ昨日の今日でそんなことを抜かせたものだ。
麒麟が戦闘体制になるとライトニングは慌てて姿勢をただした。
「ごめんごめん!まぁ、でも麒麟も同じこと思ってたかもよ?」
「エロいって?」
「じゃなくて!面白いと可愛いの方!」
「可愛いは余計です…でも、分かるもんですか?」
「人型になれば喋れるよ。麒麟はどの種類もあまり人と接触したがらないから、元の姿のときは不必要なときは喋らない」
なんと、それは思い至らなかった。確かに、黄龍だってクロだって喋ることができる。麒麟たちのような上級悪魔であれば尚更だ。
だが、人と関わりたくないのであれば仕方ないとも思う。
「あー…麒麟、よければ話してみたい。でも、自分が喋りたくなければ無理しなくていいよ。命令とは思わないで」
無理矢理は避けたい。特に、今まで無神経に呼び出してきてしまっていたこともある。目を見て言うと、麒麟は少し悩んだようにしてから、パッと光輝いた。
直後、そこには朝祇より20センチは背が高い、金髪の青年が立っていた。東洋の緩やかなドレープの入った布を纏い、金髪の髪は後ろは首もとから刈り上げ、右側のもみあげだけゆらりと垂れている。
そして、この世のものとは思えない精悍な顔立ちだった。
「うわ、すごい神様っぽい」
「…いつも思うけど、主様、不思議な感想言うよね」
『まったくだ』
麒麟の第一声は少し呆れを含んだ、しかし楽しげなものだった。黄龍も同意してくる。
「いやだってめっちゃ神々しいし…」
「ははは!君は悪魔からも変な人だと思われてるんだねぇ」
「あんたには言われたくないです!…えーと、麒麟、ごめんね、何度も無理矢理呼び出して。ほんと、好きな子との逢瀬を邪魔したとかなかった?」
本当にそれが心配だったので改めて聞いたのだが、ライトニングは再びツボに入ったのか苦しそうに笑い始めた。
その咳混じりの笑い声が響く中、麒麟もふっ、と笑う。
「何それ、そんなのないし。それに、そんなことまで心配してきたの、主様だけだよ」
「やっぱ俺のせいでなんか嫌な思いとかしてたら申し訳ないからさ。あんまり、悪魔を使役、なんて表現したくないっていうか…せっかく会えたからには、仲良くしたい。人と関わるの嫌なのに人型取ってくれたくらいだし!」
「…うん、不思議な人だ。でも、嫌いじゃない」
ふわり、と綻ぶように笑った麒麟は、朝祇の前に膝をつく。あまりにも優雅な動作だった。
「僕、麒麟は、一ノ瀬朝祇殿の使役を拝することを誓います」
「…えっ、でも…」
「いいから。僕が、あなたならいいって思ったんだ」
そう言う麒麟は、やはり綺麗に笑う。そうやって笑いかけてくれたことが、何より朝祇にとっては嬉しかった。やはり、仲良くできる相手が増えるのは素敵なことだ。
「…ありがとう。俺も、麒麟を呼び出せて良かった。…ちょっと、照れるな、これ」
相手が麒麟だからなのか、つい直接的な言葉を言ってしまったが、少し気恥ずかしさがある。ぽりぽりと誤魔化すように頬をかくと、麒麟は立ち上がって朝祇を抱き締めた。
「なっ、えっ、」
「主様は可愛いね!仇なす奴は土塊に帰してやるから安心してね!」
「あー…ありがとう」
そういうところはきちんと悪魔だなぁ、なんて思ってしまった朝祇だった。