いざ米国−8
「…へぇ、話して1分で契約にこぎつけるとは、やるじゃないか」
笑いを引っ込めて、口許に笑みを浮かべた状態でライトニングは言った。麒麟の腕から出てそちらを見ると、前髪の合間から不思議な目線とかち合った。まったく読めない、深みのある目で、思わず逸らしてしまった。
「…主様の強さは、黄龍殿から聞いてる。あの人への警戒もね」
すると、 麒麟は朝祇の耳元でそう囁いた。恐らく、イエローストーンでのことを黄龍から聞いたのだろう。朝祇の知覚できないどこかでの会話のようだ。
「その覚悟を持てる強さ。僕も、他の麒麟たちも、主様に従いたくなるだけのものだよ」
「…ありがと。あまり、無理はさせないようにするよ」
「もー、主様に無理させたくないのに」
麒麟は仕方ないなぁ、というように笑って離れる。
そこで、ライトニングも口を挟んだ。
「さぁ、そろそろ他の悪魔とも契約を結び直そう」
「あの、契約って言っても、俺は具体的に何をすれば…?」
「ぼかぁ、悪魔の使役に一番大事なのは、悪魔と仲良くなることだと思ってるからさぁ。仲良くなればいいよ!」
ライトニングは快活に笑い、近くの岩に腰かけた。暑くはないのだろうか。
それに、仲良くなる、なんて曖昧すぎやしないか。
「あの人の言う通りだよ。僕らが従いたいと思えば契約は自然に成立する。もちろん、主様も望んでる範囲内でたけど」
「なんかこう…契約〜ウワ〜みたいな儀式やんないの?」
「ふふ、主様は本当に面白いね。それを必要とするのは普通の人間だけで、主様みたいに代々の才能を受け継いでる人なら大丈夫だよ」
「そんなもんなのか…分かった、じゃあやってみる」
朝祇はもう1枚印章紙を取り出すと、血をつけて再び唱える。
「青春が瑞獣、毛蟲が長、冀うを聞くは其の礼徳の大なる故ならずや」
呼び出したのは聳弧。青緑の毛並みが美しい麒麟だ。ライトニングは興味深そうにそれを眺めたが、特に何も言ってこない。ここからは任せるつもりだろう。
「聳弧、君と話してみたいんだ。嫌だったら全然構わないから、よければ人型になってくれない?」
聳弧はチラリと麒麟を見てから、ひとつ頷き、光を放って人型になった。
背格好は麒麟と同じだが、髪は毛並みと同じ青緑色で、緩くウェーブしていた。そしてやはり綺麗な顔立ちだが、麒麟より甘い顔をしている。
「久しぶりに人型になったよー。こんにちは主様、俺も話してみたいって思ってたんだよね!」
そして、若干チャラい。こんなんだったの?なんて感想は失礼かと思い曖昧に笑った。
「言っちゃっていいよ主様、チャランポランだって」
「あ、ほんと?チャラいな」
「言っちゃうんだ!?素直すぎじゃね〜!?まぁいいと思う!」
コロコロと表情がよく変わる。麒麟もくすくすと笑っているため、こういうやつなのだろう。朝祇もつられて笑ってしまう。
「おぉ、今までで一番かわい〜主様だねぇ!だから従ったの?麒麟は」
「聳弧みたいに顔で選ばないから」
「えっ、お前使役相手を顔で選んでたのか…?ひでぇ…」
「お〜い適当なこと言うなよ麒麟!てか主様、麒麟のこと信じすぎっしょ!!」
「いやだって…契約したし?」
麒麟は何となく信じられる。やはり黄龍と同じく土行の瑞獣であるため、"信"を司るからだろう。それに、すでに契約済みなのも大きい。聳弧はチャラい感じがするからか、なんとなく胡散臭く見えた。ちなみにこの会話を聞いているライトニングは肩を震わせていた。
「え〜、じゃあ俺も契約する〜!」
「っておい、そんな簡単に決めていいわけ?もっとこう…大事にしろって」
具体的にはよく分からないが、彼らも神格級の悪魔なのだ、こんなに簡単に従ってしまうのは良くないのではないかと思ってしまうのだ。
「主様こそ、そんなこと考えなくていいのにぃ〜。俺らにしたら一瞬だし?」
「…聳弧がいいなら、ぜひ。大事にする」
朝祇の心配は、彼らが一番分かっていることだ。大丈夫だというなら、それでいい。それに、朝祇が彼らを大事にしてやればいいだけだ。
「…いいね、やっぱ」
すると、聳弧は今までと違う柔らかな笑みで膝まずいた。一瞬で神聖な雰囲気を醸し出すところは、やはり神様とされる悪魔なのだなぁと感じる。
「青春が聳弧、あなたの使役を拝することを誓います」
「…頼む」