いざ米国−10
翌日。
同様にライトニングに連れられて炎天下の砂漠に立つ。昨日よりも日差しが厳しい。
すでに倒れそうな朝祇に対して、ライトニングは飄々と岩に腰掛けた。
「今日で残る2体の使役もしたいところだけど、どうだい?自信のほどは」
「…地の王の眷属だった昨日の3体とは違い、黄龍の力もあまり作用しない火の王と水の王の眷属です。一筋縄ではいかないと思ってます」
「それだけ分かってれば十分!じゃあやろうか」
朝祇は頷いて返し、まず印章紙を持たずに目をつぶる。
「…青春が瑞獣、毛蟲が長、冀うを聞くは其の礼徳の大なる故ならずや」
今までは印章紙から出ていたのが、唱え終わると同時に、近くの地面に五芒星が浮かんだ。そこから光とともに、聳弧が現れる。なぜか人型だ。
「昨日の今日で悪いな、聳弧」
「いいってことよ〜!呼ばれるのは分かってたしね」
最初から人型で出てきた聳弧は、どうやら呼び出した目的は推測済みだったらしい。
「いきなり角端を呼ばなかったのもよく分かってるじゃないか」
ライトニングも笑みを深くした。どうやらこれで正解だったらしい。
水の王の眷属である角端を従わせやすくするためには、やはり水に対して力を持つ悪魔が効果的だ。そこで、地の王の眷属でも五行説で言うところの木行の聳弧を呼び出した。水に対して、植物を司るものはどの文明においても優位に立つからだ。
「でも主様〜、さすがに角端相手にするのは契約しててもタダじゃあできないよ〜?」
「分かってる。何が欲しい?」
大きなことを頼む場合、たとえば魔剣であれば血をつけたり髪を切らせたりすることで体の一部を与える。
その他の悪魔も多くは血を与えればよく、印章紙に血をつけるのもそこから来ている。
また、それぞれの属性と相性の良い属性のものを用意することも有効だ。地であれば、火と腐である。
「そうだなぁ…じゃあ、」
すると、聳弧は突然朝祇を抱き寄せた。驚いて反応できずに固まると、聳弧はそれをいいことに唇を奪ってきた。押し付けられた唇から、舌がぬるりと入ってくる。
「ふっ、ん、ぅっ、」
「…っ、かーわいーねぇ」
咥内を暴れまわったあと、舌は抜かれ聳弧は離れた。突然のことに目を白黒させていると、聳弧がくすくすと笑いながらそんなことを囁く。まさかこんなことをされるとは。
「さぁさぁ、早くやっちゃお〜」
「…はぁ、分かった」
色々と言いたいことはあるが、今はいい。ため息をついて、まずは印章紙を取り出して血をつける。
「玄冬が瑞獣、毛蟲が長、冀うを聞くは其の礼徳の大なる故ならずや」
唱えれば印章紙から光が飛び出し、目の前に漆黒の毛並みを纏う麒麟が飛び出した。角端である。
「こんにちは、角端。よければ話したいんだけど…」
『わざわざ人型になる必要もなければ、そもそも主様とお話しすることもありません』
少し高めの男の声は、冬の海のように冷たかった。やはり、警戒されている。
「ケチケチすんなって角端」
『人と馴れ合うなど…今まで通りでも良いでしょう、力のない者の召喚なのですから』
「主様!こいつこんなこと言ってるけどどうする!」
「…じゃあ、君を認めさせればいいんだね?」
『できるものなら』
どうやら角端は、まだ若い朝祇に従うのを渋っているらしい。それは仕方ない、というかむしろこちらが正しい反応だと思う。
「頭固いやつだな〜、仕方ない」
聳弧はため息混じりに言うと、人型から元の姿に戻った。朝祇も銃を抜いて構える。あらかじめ入れておいた弾を確認してから、朝祇は聳弧の毛並みを撫でる。
「フォローだけ頼む」
『…へーき?』
「じゃないと意味がないからね」
『…分かった』
朝祇は銃を構える前に弾倉を取り出すと、中の銃弾がみえるように角端に見せた。普段は麒麟たちの力を宿して弾に変換しているため実弾は使っていなかったが、今回は違う。
「俺はこの6発しか使わない。他の悪魔の力を宿すこともしない。正真正銘、6発しか撃たないで君に勝つ」
『…ナメられたものですね』
上手くいくかは分からないが、実力が不十分な朝祇にはこれしかないのだ。
「異論はないな?」
『後悔させてあげましょう』
「じゃあ、スタートだ」